1999年6月18日,定期検査中の北陸電力志賀(しか)原発で定期点検中に臨界が発生.原因は想定外の制御棒引き抜けだった.
この事件が2007年3月15日に明るみに出た.その隠蔽に関して様々な報道がされる中,引き抜けの原因説明がどうも釈然としなかった.
理由は,説明の図にピストンのイラストが使用され,出口側の弁が閉じられたことにより,
上からの圧力が増してピストンが下がるという説明で,義務教育の理科を習得した人であれば,ピストンを押しているのが水,
すなわち非圧縮性の動作流体なのに,出口のないシリンダーの中をピストンが落ちるはずがないと思うからだ.その後,この現象を巡って
失敗学会の
掲示板
(
注:要失敗学会員パスワード)のやり取りが賑った.
その中で,
日本システム安全研究所の吉岡律夫さんにより,
結構ピストン周りからリークがあるんですよと教えられた.そして,北陸電力から
『
志賀原子力発電所1号機の臨界に係る事故についての報告』
(2007年3月30日)が発表された.しかし,この報告書中の物理的原因解明も図が不鮮明なため,よくわからず,さらに
失敗学会
掲示板で討議が重ねられることになった.
上記北陸電力の報告書をよく読むとようやくそのからくりがわかったので,ここに図を入れて説明することにした.
私達が混乱したのは,『ピストン』というと,注射器,水鉄砲,油圧シリンダのようなものを思い浮かべてしまうことだった.
BWRの制御棒駆動機構のピストンは元来,その周りから作動流体がリークするように設計されている.
こうすることで,引抜側であれ,挿入側であれ,制御棒駆動機構の圧力ヘッドが何らかの理由で急激に変化しても,
制御棒がそれに追随して急激な動きをすることがない.つまり,剛ではなく,柔な駆動系を作ることで本質安全をなしているわけだ.
以下,一連の図10枚で制御棒が引き抜け,その後全挿入されるまでのメカニズムを説明する.
本記事は,隠蔽に関する道義的問題については何の考察も行わない.