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〜アイシン精機で工場火災(1997)〜


【事例発生日時】1997年2月1日

【事例発生場所】愛知県刈谷市

【事例概要】
大手自動車部品メーカー、アイシン精機刈谷工場(プロポーショニング・バルブ:PVの生産工場・トヨタ車の90%を担っている)での火災により、トヨタグループの中で刈谷第一工場でしか生産していなかったPVの供給が完全に停止。PVは生産にかなりの加工精度を要求され、車種ごとに形状が微妙に異なるなど、他工場での代替生産が難しかった。このため、在庫を極力持たない「かんばん方式」を採用していたトヨタの全工場や同じく供給先だった三菱自動車工業の主力工場の操業も停止。トヨタだけで減産規模は7万台以上となった。

【事象】
大手自動車部品メーカー、アイシン精機刈谷工場(プロポーショニング・バルブ:PVの生産工場・トヨタ車の90%を担っている)での刈谷第一工場の中央ラインから出火、初期対応が遅れ火災が拡大した。PVの供給が完全に停止。トヨタの全工場や同じく供給先だった三菱自動車工業の主力工場の操業も停止。トヨタだけで減産規模は7万台以上となった。

【経過】
04:00〜、大手自動車部品メーカー、アイシン精機刈谷工場(タンデムマスターシリンダー、クラッチマスターシリンダーおよびプロポーショニング・バルブ:PVの生産工場・トヨタ車の90%を担っている) の第一工場で、従業員が小休憩していた。
04:18頃、従業員が休憩から戻ったところ、中央ラインから火が出ているのを発見、 初期対応が遅れ、火災が拡大した。
8:52、鎮火。
火災により、グループの中で刈谷第一工場でしか生産していなかったPVの供給が完全に停止してしまった。 PVは生産にかなりの加工精度を要求され、車種ごとに形状が微妙に異なるなど、他工場での代替生産が難しかった。 このため、在庫を極力持たない「かんばん方式」を採用していたトヨタの全工場や同じく供給先だった三菱自動車工 業の主力工場の操業も停止。トヨタだけで減産規模は7万台以上となった。

【原因】
インデックスマシンの刃こぼれによる摩擦熱か、あるいはフランジングセンター加工の際の削り粉を送り出すコンベアーの目詰まりによる負荷のため、木製踏み板(火災危険性を考慮すると鉄製とすべきであったが、弾力性の点で作業上つかれやすいということで木製が使用されていた)の下に位置しているモーターが過熱し出火(推定)。
1963年に建設された刈谷第一工場には、スプリンクラーが設置されていなかった。また、工場ライン一部の機械の内部には、炭酸ガスで消火する装置がついていたが、機械の外、あるいは踏み板の下部からの出火のため有効に機能しなかった(推定)。
また、部品調達について、トヨタ社内ではPVに関して、アイシンのほかアイシン新和、自動車機器など「複数の部品メーカーに発注している」ことになっていた。ところが、PVはいくつかの小部品を組み合わせて作る。その一部の部品についてアイシン刈谷第一工場がほぼ独占的に製造していた。

【対処】
2月1日、アイシングループ4社、仕入先会社22社、36社、系列企業2社に遊休生産設備借用・代替生産を要請した。
2月2日0:15、トヨタへの納入部品メーカーで組織されるデンソーなどトヨタ協豊会メーカーに代替生産の即時開始を要請した。
2月3日、操業不能となった第一工場の生産補充のため、他工場の生産ラインを24時間体制で稼動することなど復旧作業に向けた作業本格化。3日現在では、生産再開のめどがたたず、トヨタ車を生産している30ラインの約七割にあたる12工場のラインが操業停止。
トヨタ、ダイハツ工業池田工場を除く19工場での4日の生産中止決定。
2月4日、19工場で生産全面操業停止。トヨタ、グループ企業の完成車工場のラインを7日には稼動見込みと発表(系列外部品メーカーの代替生産の見通しつく)。その間の減産台数は「5万台」、2月3,4日の両日だけで、減産分は2万台以上。
2月5日、トヨタ、完成車工場の組み立てラインを全面停止した。
トヨタグループ企業が部品の代替生産に協力したことと、在庫や物流管理が徹底しており、部品供給が再開すると同時に売れ筋の車から機動的に生産できた。
2月7日、全20工場30ラインで操業開始した。
2月24日、全ラインで立ち上がる。
4月末、すべて内製化完了。

【対策】
火災発生に対する対策内容は不明である。部品発注に関しては複数発注の原則をさらに強化した。

【総括】
2万点を超す自動車部品のうち、わずか1種類の部品が入手できないために、数万台の生産がストップする。一見特殊な事態に見えるが、これは多品種少量生産と同時に、徹底的な生産性を追及する日本型生産システムに共通の弱点を露呈したものといえよう。一方、操業再開への道のりは「系列」というこれまた日本独特のシステムが機能したという側面もある。

【知識化】
@ 効率の追求は、リスクの増大という側面を持つ。
A 一極集中生産によるコスト削減は部品調達先の事故で商品生産ライン停止のリスクを大きくする。
B 系列メーカーと親企業との普段の関係が万一の時に大きく影響する。今回はコスト競争力を強めるため、 親会社が系列メーカーと共同作業で対応してきたという信頼関係がなければありえないことである。
【背景】
トヨタ自動車は1950年代より、工場の部品在庫を減らし、保管費用などのコスト削減を図るため「必要なものを必要な時に必要な量だけ」部品メーカーに納入させる「ジャスト・イン・タイム・システム」を導入してきた。トヨタ自動車の場合、工場内の部品箱に「かんばん」を付け、部品の数量や使用場所、工程の指示などを記入。箱から最初の部品を取り出した時点でかんばんを外して部品メーカーに戻し、補給部品を発注するので「かんばん方式」と呼ばれている。
1979年7月に東名高速道路日本坂トンネル事故や、1995年の阪神大震災で部品調達ができず、生産ラインが停止するケースもあった。大震災後、部品の複数発注を進めるなかで、ウレタン製など燃えやすい部品から優先して分散してきていた。

以上