【事例発生日付】1996年2月21日 【事例発生場所】山梨県山梨市 【事例概要】 山梨厚生病院2号館4階の高気圧酸素治療室で、高気圧酸素治療装置のタンクが爆発。患者ら5人死傷した。患者が持ち込んだ使い捨てカイロの発熱が原因であった。 【事象】 山梨厚生病院2号館4階の高気圧酸素治療室で、高気圧酸素治療装置のタンクが爆発。患者ら5人死傷した。 |
【経過】 14:20〜、高気圧酸素治療室(約34.5平方m)で、脳梗塞治療のため、患者(74)が透明カプセル状の高気圧酸素治療装置に入り、加圧開始した。 15:05頃、治療終了直前、高気圧酸素治療装置の治療タンクが突然爆発した。タンク内で治療中だった患者に付き添っていた患者の妻に、爆風で飛ばされたタンクの鉄製ハッチが当たり、全身を強く打って間もなく死亡したほか、患者も全身やけどの重体となった。治療室内にいた病院の技師2人ら計3人も軽いけがを負った。 爆発した治療装置は跡形もなく吹き飛んだほか、病室の外壁や入口ドアも吹き飛とび、天井が崩れ落ちた。 |
【原因】 1.患者が使い捨てカイロを身に付けているのを見逃した・・・・・マニュアル(手順)無視 病院の内規では、同室にはカイロや静電気を起こす化学繊維の持ち込みを禁止し、患者 は専用衣服に着替え、治療にあたる臨床工学技師がボディチェックを行なうことを、定 めていたが、事故当時、技師によるボディチェックは行なわれなかった。 また、患者は、中が寒いため(推定)、普段着ている肌着にアクリル製毛布を着用して 入っていた。 2.装置のタンク材料の選択誤り・・・・・設計の仮想演習不足 患者が持ち込んだ使い捨てカイロが装置内で異常発熱して内部の温度が上昇し、装置のタンクを覆うアクリル樹脂が 溶けてガス化、爆発した。ガス化しない材料を選択していれば、これほど被害は大きくならなかった。タンクの胴体は、 外から患者の様子が見えるように、透明のアクリル樹脂が使われ、2重構造になっていた。 |
【対処】 山梨県警捜査1課と日下部署による現場検証と事故原因調査実施。 病院は当初「患者は静電気防止のため専用衣服に着替えさせ、発火性のものも持ち込ませなかった。」 と説明していたが、その後担当技師への事情聴取で、患者がアクリル製の毛布やふだん着ている肌着を着用していたことがわかった。 23日、装置を製造した米国「セクリスト社」は事故を起こした機種「2500B」の販売・使用を中止するよう、全世界の納入先などに要 請を始めた。事故が「過去に例のない大規模な爆発だった」として、原因が特定されるまで、販売・使用を中止するよう求めた。 |
【対策】 不明 |
【背景】 高気圧酸素治療装置は、密閉して気圧を高くしたカプセル内に患者を収容し、酸素を強制的に体内に送り 込むために使われる。血液に大量の酸素を溶解させるため、酸素不足から起きる症状に効果的とされ、国内では急性ガス 中毒や潜水病などの救急用以外にも、心臓や脳外科の慢性疾患治療用として、1970年代から急速に使われるようになった。 事故発生当時、国内で700〜750台が使われていた。 装置は内部が高圧酸素で満たされるため、発火物の持ち込みや静電気は厳禁。扱えるのも医師、看護士、臨床工学技師に限られる。日本高気圧環境医学会では、1969年に安全マニュアルを作成、1995年11月までに8回も見直して、カイロなどの所持品や化学繊維衣類の着用有無などの事前チェックを細かく指導していた。 カイロが原因の高気圧酸素治療装置の事故は、岐阜市や福島市などで3件起きていたが、いずれも懐中カイロが原因で、使い捨てカイロによる事故はこれまで報告されていない。 |
【知識化】 @ マニュアルは容易に無視される。 A 当事者は責任回避のため事実を曲げて説明しがちである。 B 原因が特定されるまで使用は避ける。 C 万一のことを考慮した仮想演習が大事故防止に有効である。 |
【総括】 山梨厚生病院は3台の装置を持ち、各装置を慢性治療に1日平均4回ずつ使用して、延べ使用回数は1989年以降、8年間で9000回にも及んでいた過去に治療を受けた複数の関係者から、「衣服や持ち物をチェックされたことはない」「中が寒いので混紡の下着を重ね着しても何もいわれなかった」などの新聞取材者への回答もあり、「余りに日常的な装置になってしまうと、安全チェックがおろそかになりがち」である。 以上 |