直径3~5mmの鋼球を高速のジェットの中に送り込み、加速して宇宙船の破片に衝突させる(図1)。鋼球の速度が8km/sの時この装置は狙いどおり動作する。 16km/sになると、ジェットに送り込まれたときの加速度で、応力が過大になり鋼球は分解してしまう。鋼球の材質をより強いものに変えることが試みられたが、うまくいかなかった。どうすれば分解しないか。解決策として、鋼球の周囲を爆薬で覆っておく。これが爆発することで、ジェット突入時に鋼球の破片は飛散せず、固まりとして目標にぶつけることができる(図2)。
 (参考文献:実際の設計研究会編「TRIZ入門」日刊工業新聞社)


図 1.ジェット加速度で鋼球が割れる


図 2.鋼球が割れる時に圧縮が働く

【思考演算の説明】
 物理的矛盾の除去には、システム内の素材・資源を最大限に活用することが必要であり、さまざまな物理現象(液体または気体の媒体の圧力変換、毛管現象、ドップラー効果、トンネル効果など)を適用する。もし問題を解決することができない場合、分析の最初の地点に立ち戻り、問題を再定義することが有効である。概して、徹底的に分析を行っても解が得られない場合は、当初の問題設定が誤っていることが多い。そのような場合、より一般的な問題を設定すべきである。本例では、まず、この問題を最小問題と捉える。すなわち、システムに大きな変更を施さずに,鋼球を壊さないように加速させる。システムの対立として、16km/sのジェットでは必要な加速が得られるが、鋼球が破壊してしまう。8km/sのジェットでは鋼球は破壊しないが、目標を達成できない。ここで、問題の再定義をする。この環境ではいかなる材質も破壊を免れないので、鋼球の分解は避けられない。しかし、何とかして破壊した鋼球を「再構成」しなければならない。そこで、問題を、16km/sのジェットは鋼球を十分に加速できるが、鋼球は壊れてしまうということにして、これから、破壊した鋼球の破片を元の状態に戻し、目標にぶつかるという能力を維持させる何かが必要である、と再定義する。そして、対立領域とリソースの解析をおこなう。対立領域は鋼球の破片からなる「雲」の近傍のジェットの層である。この対立領域にあるリソースはガスのみである。理想的な解としては、対立領域のガスが、鋼球が破壊する瞬間に「雲」の中心に向かう圧力を発生させることである。この際の物理的矛盾としては、圧力を発生させるため、ガスの粒子は「雲」の中心に向かって動かねばならない。 再組立された鋼球を加速するためには、これらの粒子はジェットの速度ベクトルにそって動かねばならない。最後に物理的矛盾の除去のため、反対の要求を時間分離で解決する。すなわち、鋼球の分解する瞬間のみに圧縮力が発生するようにする。以上が、思考演算のながれである。