ロシアのある発電所は、約100km先の街まで送電しなくてはならなかった。しかし、寒い冬になると、図1に示すように、電力線に氷が付き、その重さで断線してしまう。このため、大電流を時々流して発熱で溶かしていたが、その作業中は街への送電電力が減少し、クレームが続出している。さて他に、どのような方法が考えられるか。図2に示すように、キュリー温度が0℃のフェライトリングを5mごとに電力線に通す。電力線に交流を流すと、透磁率の高いフェライトリングの中に通る磁束に変化が生じ、それに伴って誘導電場が生じる。そして、誘導加熱でフィラメントの温度が上昇すると電力線も加熱される。しかし、これでは夏でも加熱されて無駄になるので、冬だけ磁性を有するフェライトを選ぶ。つまり、キュリー点を0℃のものを採用すると、0℃以下で磁性が生じて、電力線を加熱する。フェライトリングには、ヒータと0℃検出センサと電流遮断スイッチとが構造の中に溶け込んでいる。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.送電線に氷が付着して断線する


図 2.フェライトリングをつける

【思考演算の説明】
 電磁気は大変有効である。たとえば、穀物サイロの中の害虫を殺すためには65℃以上に穀物を熱すればよいが、66℃になるとサイロの中の穀物が劣化するという。さてどうすればよいか。答えは次の通りである。つまり、キュリー点65℃の強磁性体の粉体を入れて電磁誘導させ、加熱した後、磁石のフィルタでその粉体を除去する。66℃になると磁性がなくなるので加熱は切れる。材料全体が1℃の範囲で磁性にするのは難しいが、とにかくキュリー点という物理現象をうまく使った方法である。