光を2つの光路に分けて、片方だけ1フェムト秒(fs、10の-15乗)だけ遅延させるにはどうしたらよいか(図1)。図2の(a)に示すように、片方だけ光路を長くする。光速が3×108m/sだから、1fsの時間内に3×10-7m、つまり0.3μmだけ進む。この微小量だけ長くすることはピエゾ素子を使えば容易である。現在、コンピュータの設計では、配線を素子と同程度に高密度化するのが難しくなり、信号が配線を伝達する時間は、1nsと演算時間と同じくらいに長くなっている。信号は光の半分ぐらいの速度で進むから、1ns(ナノ秒、10の-9乗)の間に光は15cm進む。この15cmは決して長い距離とは言えず、たとえば図(b)に示すように、プリント基板の端のICからもう片方の端のICにまで信号を送ると、それだけでトータルの処理時間が長くなる。50年前のコンピュータの初期には、メモリとして遅延線が用いられていた。つまり、図(c)に示すように、2枚の水晶ピエゾ発振子の中に水銀をはさみ、メモリする信号を含んだ超音波を加える。受信した信号を再び発信して何度もくるくる回せば信号を記憶できる。これは信号の時間変化を距離の変化に代えた良い例である。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.1fs(フェムト秒)だけ光を遅らせたい


図 2.時間を距離に置き換える

【思考演算の説明】
 時間を変化させようとすると話が難しくなるが、物理量を変換して距離を変化させればよいことに気が付けば、機械工学ではしごく簡単な話になる。