ある街の中央に塔があったが、これが年々、地盤沈下しているらしい。真偽を確かめようと、図1に示すように、塔の周辺から塔を調べたが、沈下しているかどうかがわからなかった。つまり、その周辺一帯も一緒に沈下しているのかもしれないのである。しかし、幸いなことに、500m先に岩盤が露出している公園があった。ここを沈下しない基準点として塔を見れば、塔の沈下がわかるはずである。ところが残念なことに公園から塔は見通すことができなかった。さてどうすればよいか。図2の(a)に示すように、公園と塔との間にパイプを渡して、その中に水をいれておき、塔の所の水位が、基準の公園の水位に対してどのように時間変化するかを測る。つまり、水準器の原理を用いる。500mもパイプを渡すのは面倒であるが、途中は屈曲していても構わない。中に水を入れて脈動を起こさせないようにすれば、地球が両方の水位を同じにしてくれる。図(b)に示すような三角測量も広く行われている方法である。三角測定は、正確な日本地図を初めて作った伊能忠敬の1800年頃でも、非常に正確であったが、最近はレーザを使用してさらに正確に計れるようになっている。最近、精度が向上してきたのが図(c)に示すGPS (Global Positioning System) で、アルトシューラーが活躍した時代にはなかった方法である。これは人工衛星を用いた三角測量で、同期して出した電波の時間遅れを測れば人工衛星からの距離がわかる。これは巡航ミサイルの誘導にアメリカ合衆国が1970年代に開発したものである。たとえば、人工衛星からの観測で予め地形図を作っておく。発射後はミサイルが自分の位置をGPSでリアルタイムで測りながら、レーダーに引っかからないように、低空飛行で地形図を参照に進入する。GPSは軍事用では16m、民間用では100mの位置精度があると言われているが、測定点のそばに比較用の静止基準点を設ければ、民間用のでもその差に注目することで数cmの精度さえだせると言われている。なお、この精度は水平方向の位置であって、垂直方向の高さではない。この問題の地盤沈下測定にはもうひとつ工夫が必要だろう。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.塔は沈下しているか


図 2.塔の沈下を測る

【思考演算の説明】
 傾斜を測るには水準器が最も簡便である。ピラミッドの頃から使われていたらしい。現在でも、この方法で浮き基礎の関西国際空港旅客ターミナルビルの不同沈下を計測している576点で計測して、不同沈下した所をジャッキで修正するという。地球が液体の表面を真っ平らにしてくれる、という考えは面白い。うまく使った例が、ガラスのフロート製作法である。溶けている錫の上にガラスを流して引っ張る。錫とガラスは反応しないから、錫のプールの片方から溶けているガラスを流し、片方で固まったガラスを引っ張れば、真っ平らな板ガラスが連続してできる。もちろんガラスは表面張力が大きいから、いくらでも薄い板ガラスができるわけではない。何もしなければ板厚6mmであるが、ローラで巧みに引っ張って薄くしている。しかし、プールも500mと長くなると、地球の丸さの影響が出てくる。つまり、プールの中央は5mmも凸になっている。この誤差は、電子直線加速器を作るようなときに問題になる。さらに細かく言えば、潮汐(ちょうせき)によって、水面が1日に2サイクルで高低するかもしれない。500mmはそのくらい地球の丸さがきいてくる長さである。