“ルナ16号”という月探査船の照明ランプを設計している。しかし、どのようにしても着陸時の衝撃によって、図1に示すように、ガラス管球が割れてしまう。もっと頑丈なものがないものかと、戦車用のランプまで試してみたが、それでもガラス管球が割れてしまう。さてどうしたらよいか。ガラス管球が付いていない照明ランプを使う。空気のない月面では、フィラメントが変質しないようにガラス管球で封入する必要はない。ガラス管球を外したという同じ例が、電離真空計で行われている。これは、真空圧力を測るものだが、空間の中の残留分子をイオン化して、そのイオンの量を測る。イオンが多ければ圧力も高い。つい10年前までは、それは図2の(a)に示すように、真空容器から配管を介して取り付けられ、それこそ電球のように光っているので、どこにあるのかすぐにわかった。このガラス管球は、真空を保つ機能と、真空計が切れていないことを確かめる機能を満たしていた。しかし、真空管の中でも、“のぞき窓”から光っているのが見られたら、後者の機能も満たされるので、図(b)のように、ガラス管球なしの真空計を真空容器の内側に向かって取り付けてもよい。真空容器の中に差し込むのだから、当然、前者の機能も満たす。さらにその方が、測定部が真空容器に近くなり、測定精度が高まる。このため、最近はガラス管球なしが常用されている。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.ルナ16号のランプが割れる


図 2.ガラス管球をはずした電離真空計

【思考演算の説明】
 「TRIZで解決した好例である」とTRIZ講習会で必ず紹介される課題である。この開発では、頭のいい科学者でさえ、既存の照明ランプの形状が心理的惰性となって、ガラス管球の機能にまで気が回らなかったらしい。「ガラス管球の機能は何だろう」「ガラス管球は副次的な機能を担っているのでは」と考えれば同じ解に至る。普通は“一本道”の開発課題となって、ひたすら衝撃に強いガラス管球の開発にエネルギを費やすであろう。