従来の板硝子生産工程では、図の(a)のように、熱せられ柔らかくなったガラス板をタンデッシュから引き出した後、引張り・成形と冷却の機能を果たすローラコンベアの上に乗せていた。コンベアのローラの径が大きい場合、ガラスの表面が不完全な仕上げになり、後で骨の折れる磨き工程が必要になる。ローラを小径にし数を増やせば板の表面の仕上げは改善されるが、小径のローラは調整と保守が難しくなる。どのようにすればよいか。ピルキントン(英国ピルキントン・ブラザーズ社)は、図(b)のように、コンベアの代わりに溶けた錫を満たした槽をおいた。このコンベアは調整を行わなくても、ガラス板の支持は完全であり、後の磨き工程は不要になった。(参考文献:実際の設計研究会編「TRIZ入門」日刊工業新聞社)


図 ローラを溶融錫に代える

【思考演算の説明】
 技術システムは作用体の分解の方向に進化する。技術システムの進化は多くの場合、そのシステムに含まれる作用体は、さまざまな要素の特性と機能に対して、多様化と分化を伴う。たとえば、システムの機能を高めるためには、ある部分は固く別の部分は柔らかい、または、ある部分は固体で別の部分は気体、ある部分は熱く別の部分は冷たい、などといった状態が必要とされる。これによって、やがて作用体は「異質構造」をとるようになる。一方、矛盾する特性を持つ部分へ分割することで、システムの機能が改善され、さらにはシステムで使用されている素材だけでなく、構成要素それぞれが断片化されていく。この素材は、ラミネートやファイバ状のもの、究極的には微細な粒子の構成に転換できる。構成要素は、機械的、化学的など、なんらかの「つなぎ 」により単一の要素にまとめることができる。これらのつなぎ作用は、固定的なものでも可変/制御可能なもの(例:静電気ないし磁場)でもよい。なお、上記の例では、進化の過程において発生する矛盾を、断片化すなわちマイクロレベルへの遷移で解いた。マイクロレベルへ遷移すれば、断片化され細かく分散した媒介物の方が(機械的、電気的、磁気的などの)、さまざまな場で制御しやすくなる。