予熱は、溶接部の低温割れ防止を目的としておこなう。予熱温度は、鋼材の種類や板厚によって、異なる。表1は、機械構造用炭素鋼、鍛鋼および炭素鋼鋳鋼の予熱基準である。ここで、炭素当量(Ceq)は次式で求められる。
 炭素当量Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/15+Cr/5+Mo/4+(Cu/3+P/2)
  ( )内については、Cu:0.5%以上の場合のみ加算、 P:0.05%以上の場合のみ加算
 表2に、一般構造用および溶接構造用圧延鋼板、表3にボイラおよび圧力容器用鋼板の予熱基準を示す。また、ステンレス鋼でオーステナイト系は予熱の必要はない。マルテンサイト系では予熱を200℃〜400℃で、後熱を700℃〜790℃でおこなう。フェライト系は予熱を100℃〜200℃、後熱を700℃〜790℃(Crが16%以下のとき)、790℃〜840℃(Crが16%以上のとき)でおこなう。なお、後熱処理を行なうまでに割れが発生する恐れがあるので、拡散性水素を放出する目的で300℃〜400℃の溶接直後熱をおこなうか、100℃以上に保持することが望ましい。低温用鋼のアルミキルド鋼(490N/mu)は、通常予熱は不要である。なぜならば、焼きならしまたは焼き入れ焼き戻し鋼から、TMCP鋼に変わってきており、低温靭性確保のため鋼材中の炭素量を極力減らしたためである。また、使用温度の低い2.5%Ni鋼、9%Ni鋼などのNi添加鋼も基本的に予熱不要である。(参考文献:「接合・溶接技術Q&A1000」産業技術サービスセンター、「新版 接合技術総覧」産業技術サービスセンター)


表 1.機械構造用炭素鋼、鍛鋼および炭素鋼鋳鋼の予熱基準(JIS規格)


表 2.一般構造用および溶接構造用圧延鋼板の予熱基準


表 3.ボイラおよび圧力容器用鋼板の予熱基準

【設計のアドバイス】
 低温割れの原因は、溶接部の組織硬化、溶接部の拡散性水素の発生、拘束などである。
 また、TMCP鋼(Thermo-Mechanical Control Process 鋼)は、鋼の熱間圧延、冷却工程で加工熱処理をおこない、組織を微細化して強度と靭性の向上を図った鋼である。従来鋼に比べ、合金成分を減らしているので同強度でも耐低温割れ性が高く、予熱温度を低くできる特徴がある。