原因 |
ユナイテッド航空811便は飛行中に機体右側の前方貨物室ドア付近にて横10フィート、縦15フィートという大きな穴が開き、その穴より乗客9名が機外へ吸い出さる結果となった。緊急着陸に成功した811便の破損状況は、貨物室ドア自体と、そのドアから2階のウインドウ・ベルト*7(Window Belt)にかけての胴体部分は失われていたが、ドア両端の胴体部分およびフレームは無傷のままの状態で残っていた。また、811便において破損付近の検査を行った結果、事故前に発生したと思われる消耗の跡や亀裂は発見されなかった。そして、調査結果からは811便は機体前方貨物室ドアに使用されていた電気配線に問題が生じ、空中でドアが吹き飛んだことでその付近の胴体部分がはがれたと推測された。 問題になった機体右側の前方貨物室ドアは機体右側の前方と後方の2箇所にあり、それらはほぼ同じような構造をしていた。また開閉操作の手順においてもほぼ同じであった。当事故において、直接的原因となったとされた貨物室ドアには10台のラッチ装置(Latch)*8が同ドア本体の下方と中央部に設置されていた。また、同ドアにはその開閉の過程で使用される3種類の電気式の作動装置が装備されており、各作動装置は、ドア本体の開閉用、フック作動用、ラッチ作動用と用途が分担されていた。 貨物室ドアを閉める作業は開閉作動装置により行われる。その手順としては、開閉作動装置のスイッチを「Closed」の位置に固定すると、同作動装置により「Open」の位置にあった同ドアが「Closed」の位置付近まで移動する。そして、その動作を探知したフック・ポジション・スイッチ(Hook Position Switch)がフック作動装置に電気信号を送り、そのフック作動装置は同ドアを、ドア受け側に引き寄せるような形で完全に「Closed」位置まで移動させる。それと同時に、ドアの下方ある8本のラッチ・カム(Latch Cam)とその中央部にある2本のラッチ・カムが、ドア受け側にあるラッチ・ピン(Latch Pin)に連結される。その動作を探知したフック・クローズド・スイッチ(Hook Closed Switch)はラッチ作動装置に電気信号を送り、ラッチ作動装置がラッチ・カムを回転させることでドアは仮ロックの状態になる。この時点では、まだドアは完全のロックはされていない。 続いて、貨物室ドアのロック作業が行われる。その作業過程としては、同ドアの外部にあるマスター・ラッチ・ロック・ハンドル(Master Latch Lock Handle)を手動で操作するものであった。同ハンドルは機械式リンクによりドア内部にある ラッチ・ロック・セクターと呼ばれるL字型の掛け金を制御しており、そのラッチ・ロック・セクターをラッチ・カムに 掛けることでドアが所定の位置にロックされる。また、同マスター・ラッチ・ロック・ハンドルは機械式リンクでマスター ・ラッチ・ロック・スイッチ(Master Latch Lock Switch)につながっており、それは全作動装置の電源を制御していた他、 コックピットにあるドアの開閉状態を知らせる警告灯の制御も行っていた。 貨物室ドアの開閉の際に使用するマスター・ラッチ・ロック・スイッチと作動装置等の電源はグラウンド・ハンドリング・バス(Ground Handling Bus)が供給していた。そのグラウンド・ハンドリング・バスへの電源は外部またはAPU(Auxiliary Power Unit)*9によって供給されており、エンジン停止時は外部電源から、そしてエンジン作動開始後はAPUの電源供給に切り替えられる構造をしていた。また、ボーイング747型機はエンジンに搭載された発電機ではグラウンド・ハンドリング・バスへの電源供給はできない構造になっていたと共に、離陸後は自動的にAPUからグラウンド・ハンドリング・バスへの電源供給も切断する安全装置が搭載されていた。この構造の利点としては、機体が接地しているときを除いては、同スイッチや同作動装置等に電源供給が遮断されるため、電気回路におけるショート等の問題が発生した場合においても貨物室ドア等が誤作動で開いてしまうことを防ぐ安全装置であった。 ボーイング747型機の貨物室ドアのロックは、構造上2つの条件がそろわないと解除することが出来ないようになっていた。1つは機体が接地していること、もう1つは外部より手動でマスター・ラッチ・ロック・ハンドルを操作することであった。更なる安全装置として同ドアのラッチ・カム下方に確認窓が設置されており、ラッチ・カムの配列を確認することができるようになっていた。しかし、出発前において、その窓を使用した確認作業は義務付けられていなかった。 その後の貨物室ドアは太平洋海底約14,200フィートから2部に分かれて発見された。同ドアと共にラッチ装置も発見されており、同装置の一部であるラッチ・ロック・トルク・チューブは引き裂かれた状態で発見された。更に、ドアの外版が広範囲に渡り折れ曲がっていた。 貨物室ドアに接地されていたラッチ装置のラッチ・ロック・セクターは、ロックの状態で発見された。しかし、そのラッチ・ロック・セクターはラッチ・カムに詰まり動けなくなった状態で、ラッチ・カムは「Open」近い位置の状態で発見された。更に、その後の電気テストで、S2マスター・ラッチ・ラック・スイッチのロックが解除された状態であったことが分かった。それは、同スイッチが、何だかの形で誤信号を発した可能性があり、それによりラッチ・カムが作動してしまった可能性が高いことを示している。 貨物室ドアに使用されていたラッチ作動装置とそのマスター・ラッチ・ラック・スイッチの電気回路図を検証してみたところ、同作動装置と同スイッチは内部ショートにより誤作動を起こしてしまう可能性があったことが分かった。そして、その検証を基に同ドア本体の配線を調べた結果、ショートを起こしていた可能性があったものが発見された。 この検証結果から、同作動装置はその電気配線の内部ショートにより誤作動を起こしドアのロックが解除されたと共に、マスター・ラッチ・ラック・スイッチの同様の原因から誤作動を起こした可能性が有力とされた。同機の電源安全装置の構造上、上空で同作動装置がショートにより誤作動を起こすことは考え難く、それは、エンジン作動開始前のグラウンド・ハンドリング・バスが外部より電源を得ている際に発生したか、もしくは、エンジン作動開始後から離陸までグラウンド・ハンドリング・バスがAPUから電源が得ていた際に発生し、同誤作動に気付くことなく離陸した同機の貨物室ドアが空中で開いてしまった可能性が高いと推測されている。 貨物室ドアのラッチ・ピンの磨耗状態から、同ドアは開閉時にドア本体とドア受け側が接触を起こしていたことが分かり、その状態で長期にわたり使用されていたことが推測される。 NTSBが発表した事故調査結果によると、1987年にパン・アメリカン航空(Pan Am)所有のボーイング747型機事故で貨物室ドアに問題があるとされたものの、それに対して、ボーイング社とFAAが即時に対応しなかったことは1989年の811便事故につながる大きな原因とされている。当初この事故は、テロリストにより貨物室に仕掛けられた爆発物が爆発したため墜落したとされたが、最近では貨物室ドアに811便と同様の問題があった可能性が指摘されている。 そして、1989年の811便事故以降も、1991年にユナイテッド航空所有のボーイング747型機の同貨物室ドアで811便と同様の問題が発生している。この1991年の事故では、ラッチ作動装置が誤作動を起こしたが、マスター・ラッチ・ラック・スイッチは誤作動を起こさなかったため大事には至らなかった。 |
用語解説 |
*7ウインドウ・ベルト(Window Belt)ー客席用窓が横向けに配列されベルトのように並んでいる部分を指す。 *8ラッチ装置(Latch)−ドアの掛け金 *9APU(Auxiliary Power Unit)−補助動力。推進用とは別に内蔵されたエンジンで、地上での動力源。 (http://www001.upp.so-net.ne.jp/suisui/koukuuyougo.htmから引用) |