原因


火災が発生した主配電盤はエンジン制御室にあり、12のユニットから構成されていた。左から順番にユニット1からユニット12が並び、ユニット12には3列12個のサーキットブレーカー用のスロットがあり、そのうち10個にブレーカーが配置されていた。ユニット8および10は、それぞれ2列8個のブレーカー用スロットがあり全スロットにブレーカーが配置されていた。ユニット9および11には冷却用のファンが装備されていた。主発電機3基のサーキットブレーカはそれぞれユニット2,3、および4に配置されていた。

この火災事故を調査した国家運輸安全委員会(NTSB)は、コロンビア号の電気系統内の負荷系統、配電系統、発電系統のいずれか1箇所に不具合があったために火災が発生したと考えている。また配電盤での火災は非常に激しいものであったため、事故の直接の原因となったものは燃えてしまったかあるいは消火液等によって変化してしまっている可能性があることも述べている。NTSBは事故原因として、主配電盤、保護装置、補助発電機およびその制御装置、主配電盤により制御されていた電気系統を考慮に入れた5つのシナリオを事故報告書の中に記載した。その5つのシナリオは以下のとおりであり、事故発生時の状況から1,2,3については事故の原因であるとは考えにくいと判断されたため除外され、事故の原因は4,5、のいずれか或いは両方である可能性が高いと判断された。

1.電気系統内の負荷系統の不具合。
変圧器、モーター、モーター制御装置あるいはそれらをつなぐ配線が短絡するなどの不具合が発生し、過電流が流れることにより導線およびその被覆を損傷し、そのために配電盤上でアークが飛び火災が発生したのではないかと考えられたが、事故後の調査では変圧器、モーター、配線等の異常は確認されなかった。これにより火災の原因は主配電盤より電力の供給を受けている装置の不具合ではないと判断された。

2.配電電盤の保護装置(サーキットブレーカー)の不具合。
保護装置の絶縁が失われたために、アークが発生し火災が発生したのではないかと考えられたが、事故後の保護装置を調べたところ、アークが発生していたという証拠は発見されなかったためこの仮定は火災の原因ではないと判断された。

3.発電系統内の異常。
発電機の回転制御装置、負荷平衡装置、電圧調整装置の異常により主配電盤の入力側に不具合が発生したために高電圧あるいは過電流状態になりアークが発生したと考えられたが、事故時の状況や事故後の調査により、発電系統に異常があったとは考えにくいため、この仮定も火災の原因ではないと判断された。  

4.主配電盤内の電気的接続の不具合。
配線の接続部が緩みや腐食のために電気抵抗が大きくなり、電流が流れにくくなる。そのため温度が上昇し、接続部が溶解し、途切れた配線の間にアークが発生したのではないかを考えられる。このとき高電流が流れていればプラズマクラウド(イオン化したガス)が発生し、近くの導体に次々とアークを発生させることは十分に考えることである。事故後の調査では、緩んでいたり異常のある接続部分は発見されなかったが、アークが発生したことで異常のあった接続部分は破壊されてしまったと考えられる。

5.導電性のある物体による不具合。
NTSBが主配電盤のユニット12で発見されたボルトを調査したところ、ボルトとワッシャー(座金)が何層かの銅によって繋がっており、このボルトが配線を短絡させ、アークが発生したのではないかと考えられた。しかし試験的にボルトにアークを発生させたときの状態と、発見されたボルトを比べたところ、異なる点が多かったため、この発見されたボルトが火災の原因になったとは考えにくいと判断された。このボルトとワッシャーには何らかの不具合により熱で溶けた配線が落ち、繋がったものと考えられる。 コロンビア号は前回のドック整備で、救命ボートを装備するために必要な電気工事を主配電盤に行っていた。 NTSBはこの工事の際や、分解整備を行っていたときに、誤って金属製の導体を放置してしまい、 発見されることなく事故発生にいたったのではないかと考えている。