2004年7月16日,Stanford, California −−スタンフォード大学,
MML(Manufacture Modeling Lab, 生産技術研究所)恒例年に一度の
円卓会議が執り行われた.参加者は,ボーイング,HP,GE,NASA,など,
米国を代表する産・官を始め,日本からは東芝,荏原,日産,トヨタ
といった一流企業から生産性,品質等のための設計,“Design for X ”に
造詣が深い面々が参列した.SYDROSE代表の飯野も招待され,意見を交わした.
日本からの参加者は2,3年もすると入れ替わるが,ボーイング,HP,GE,
からの参加者は何年も顔を合わせつづけていて既におなじみになっている.
飯野もRicoh Corporation, INDEK と会社は変わって来たもののこの会議に
参加しつづけている. この日のプレゼンは,以下のものが用意され,円卓の技術者達はそれぞれの 研究の進行について感嘆の声をあげたり,違った方向を示したり, 所属は違うものの学究となると,企業の壁を越えてベストを模索する 性癖があるようだ.
この中でも,とりわけボーイングのハヴスコルド博士の発表には, 居並ぶ列席者が同社の今までの設計エラーとその修復に対する多大なデータ収集と分析の 深さに驚かされた.まず,図1はエンジン開発の時間履歴とコスト内訳を示している. これは,『こうだろう』という科学者の予想ではなく,過去の開発実績に基づくグラフである. 図1を見ると,なんとコスト全体の73%もが修正,すなわち設計がまずかったところを直すことに かけていることがわかる.当然,同じ部分に何度も修正がかけられることもあるだろう.次に この修正コストについて分析したのが図2である. 図中,未知の事象というのは全く人類が知らなかった事象というよりも,原因分析をすると 「既知の事象だが,設計者がこの状況で起こると全く予想しなかったこと」と解釈したほうが いいだろう.それに対して既知の不明現象というのは,「設計者が起こることを予想できた ものの,その影響範囲やいつ起こるかを正確に予測できなかったもの」である. この図を見るとわかるように,全く予想もしなかったことが起こると,修正のための工数や 時間がかかって大きなコストとなる.それに対して,既知の事象が起こっても,その修正費用は 小さい.ここでいう既知の事象とは,いわゆる『うっかりミス』のようなものと思えばよい. 図2中央の既知の不明現象は,不良の発生をわかっていながらも影響の程度が不明なため, とりあえず試作して,その後の実験で寸法等を決めていこうというものである.よって, その修正にかかるコストもある程度予測でき,関係者の計画範囲に入るものである. 問題なのは修正コストがコントロールできない未知の事象(Unknown-Unkowns,略して Unk-Unks アンカンクス) である.しかし驚いたのは,ボーイング社ではエンジンの開発に 入る前から,これらが起こることを想定していることである.ハヴスコルド博士によると, 同社では経験を重ねることによって,この右上がりの2次曲線のようなカーブをどんどん左下に 向かって進んでおり,未知の現象がなくなる方向に向かって開発のコスト管理,すなわちコスト 削減を実現しているという. 以下写真は円卓会議の様子. |