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サイドローズ失敗学記事
自殺増加に関する考察
中央労働災害防止協会(中災防)による安全衛生トップセミナーに参加した.
セミナーに関する情報は,
失敗学会ニュースページを参照されたい.ここでは,同セミナーに問題として取り上げられた
ここ数年の自殺増加に関して考察する.
このセミナーでの講演で,厚生労働省労働基準局安全衛生部長小田清一,
大阪ガス(株)岡田邦夫両氏の資料に,警察庁による『平成15年中における自殺の概要資料』[1]
が引用されていた.改めてこの文書をアクセスすると,詳しいデータが得られた.
その中から数字を抜き出し,1979年から2003年までの自殺者数の変化を次図に示した.
この図から,1997年から1998年にかけて自殺者数が大きく跳ね上がったのが
わかる.そこで1997年までの3年間合計に対する1998年からの3年間合計の比を3年比として
計算すると,1.40になる.1998年からの3年間は1997年までの3年間に比べ,
自殺者が40%増えたことになる.これは総務省統計局統計データ,第21章『保健衛生』[2] による
データから1995年と2000年を比べてみると,抜きん出て増加した死因であることがわかる.
次に 2003年までの10年間の「動機」,「職種」,「年齢層」の内訳を表にした.それぞれの
3年比も計算した.この3年比が 1.40を大きく越えるものは,増加率が特に大きかった「動機」,
「職種」,「年齢層」である.詳細表を見ると,経済生活や勤務関連の理由から,30代と50代の自営者や
管理職の自殺が大きく増えているのがわかる.
そこで企業倒産との関連を考えてみる.次図は,
東京商工リサーチ [3] のデータをもとに作成した倒産件数と負債総額の変化である.
この図を見て,まず気づくのが2000年の負債総額の大きなピークであるが,
自殺者が急増した1998年の前年1997年も負債総額が1996年のほぼ2倍になっている.ただし,倒産件数は
特に増えたわけではなく,1984年前後の方がむしろ倒産件数は多かった.
さらに注目すべきは,2001年から急激に負債や倒産が減っているにも
かかわらず,自殺者数とその内訳は特に変化を見せていないことだ.ただし,被雇用者の自殺が
2002年から2003年にかけて10%以上増えている.
日本で仕事をしていて感じるのは,体裁と体面をかなり重要視していることだ.
これもアメリカとの比較においてだが,準備と事前連絡,さらに根回しに膨大な労力と時間,すなわち
コストをかけている.利点は“事”がほとんど滞りなく予定通りに進むこと.難点は,逆に
予想しなかった事態に直面したとき,泡を食ってうまく対応できなくなることが多い.
不思議なのは,組織の体面は重要視する日本では,個人の体面や感情はかなり
犠牲になることだ.過密なオフィス環境も問題であるが,他人の目前で部下を叱りつける
上司も多い.精神的高揚が重要なスポーツ界ならいざ知らず,通常の仕事環境では
アメリカでそのような光景はまず見られない.下手に怒鳴りつけたりすると,それこそ
精神的苦痛を受けたと訴訟に発展しかねないからだ.事実,大手日本企業のアメリカ現地法人
に対する「セクハラ」や「人種差別」の訴訟が後を絶たない.これは逆に考えると,欧米社会では
訴訟に発展するような職場の慣行を,日本では個人が当たり前のこととして我慢していることに
他ならない.文化・風習の違いもいいが,個人の我慢が限界に来たとき,起こる事象に組織が
持ちこたえる準備があるのだろうか.せめて「ツツヌケ」ではなく,個人が日ごろの悩みを
相談するプライベート窓口を各社備えるときが来ているようだ.
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(いいの・けんじ) |
【参考文献】
- 『平成15年中における自殺の概要資料』警察庁ホームページ
- 総務省統計局統計データ,第21章『保健衛生』
- 『全国企業倒産状況』東京商工リサーチホームページ
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