【動機】 ここまで完全な機械設計ミスが露呈される事例も少ない。設計を行った技術者もお粗末であれば、それを承認した人 の責任も重大。機械工学の高等教育を受けたものがこのような設計をしてはいけない。 【事例発生日付】1994年5月23日 【事例発生地】米国 【事例発生場所】Buchanan社、倉庫 【概要】 倉庫内、棚積/降ろし機Hi-Stakの操作員が木製台と合わせて664kgの金型を移動中、台車が端部まで 来てストッパーで止まったとたん、台車のホイールがレールから外れ、金型が自重で落ちて、台車がレールに 引っかかったままのほうのホイールを中心に回転。操作員はブランコから投げ出されるように6m飛ばされて床 に落ちて重症をおった。 (図1 倉庫管理システムの基本構造) |
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【経過】 Lakewood社は、重機器用棚積・降ろし機の大手、この手の機械を何百台も売っている。本事故の棚積・降ろし機 は直行する3方向の直線運動と、この3方向のうち垂直上下動するフォークリフトが、残り水平2方向の平面内を自由 に移動する台車を中心として鉛直軸回りに回転する(図1, 図2)。 (図2 右側上段奥のA位置から反対側下段手前のB位置に移動) 事故があった Buchanan社は建設用車両メーカー大手、同Lakewood社自動棚積・降ろし機 Hi-Stakを1986年に1台、代理店フォガーティ兄弟社から購入、倉庫管理に使っていた。事故を起こしたのは、自動棚積・降ろし機操作員のWest Michaels。フォークリフトの反対側に乗って、 倉庫の一番上段から木製台をあわせて664kgの金型を抜き取り、移動中であった。Michaels は抜き取った金型を、フォークリフトを下げずにそのままの高さで後ろ向きに移動。ストロークの終端まで来て、 自動棚積・降ろし機が機械式ストッパーにぶつかる。 この衝撃で台車のフオークリフト側ホイールがレールから外れ、台車、フォークリフト、運転台、金型が一体となって反対側のまだ引っかかっているほうのホイールを中心に回転を始める。 Michaels は金型や台車から遠く6mほど離れた地点に落ち、金型、続いて台車が落ちた。 気を失ったMichaelsが気づいた時は病院のベッドで寝かされていた。 (図3 台車崩落とMichaelsが振り落とされる様子) |
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【原因】 Lakewood社の自動棚積・降ろし機は、一見2本のレールが対抗して頑丈そうに見えるが、レールがH型鋼で作られており、 円筒キャップ型のホイールが乗っているだけのものだった(図4)。H型鋼はW6x12タイプ、横6"、高さ12"でホイールが接触 している幅は [ 6 - (中心部材幅) ] / 2インチで、台車ホイールの軸方向遊び、組み立て誤差を考えると静止状態で50mm程度 であっても不思議ではない。さらに静的・動的負荷がかかった時、図5の変形モードを考えると、台車ホイールが外れても なんら不思議はないだろう。
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【背景】 この自動棚積・降ろし機は、移動するときはフォークリフトをなるべく地面に近いところに降ろして行うという警告が機械自体にもステッカーとして貼られていた。事故を起こしたMichaels は、同機の運転が荒いことで倉庫中に知られていた。Lakewood社は Buchanan社の取り扱いに問題があったこと、フォークリフトを下げておれば、それほど大きく回転しなかったと主張したが、慣性により、ストッパーに台車もしくはその1つ外側のレールがぶつかれば、ホイールが外れる可能性が高いことを認めた。同機仕様は、2000ポンド、909kgまで積載可能としていた。 |
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【対処】 振り落とされ、6m離れたところに落ちたMichaels を病院に担ぎ込んだ。 |
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【対策】 自動棚積・降ろし機を所有していたBuchanan、製造元のLakewood が解析をやり直し、このような事故を二度と繰り返さないよう機械を補強した。 |
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【知識化】 設計では静的な力の流れを考えなければならないのと同時に動く部品があれば動的な解析も必要。 構造部材のH型鋼をレールに使うなど、部品を本来の目的と違う使い方をすると、失敗することが多い。ただし、大きくコスト削減を実現することもある。違った使い方をするときは十分あらゆる場面を想定して仮想演習しなければならない。 |
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【情報源】
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