失敗百選
〜糖尿病薬「リズリン」のリコール〜

【動機】
最近、失敗学とのかかわりの中で、医療関係者との交流が増えてきた。未だ、委員会に医療関係者が不在の中で、biomechanical 分野も包含する機械工学の立場から医療に関する詳述を1つ入れることにした。
【事例発生日付】2000年3月21日

【事例発生地】アメリカ合衆国

【事例発生場所】アメリカ合衆国を含め全世界に影響を及ぼした

【概要】
2000年、3月21日、米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)が2型糖尿病の処方薬として流通していたトログリタゾン(商品名リズリン、Rezulin)のリコールを製造社のWarner-Lambertに指示。それまでに同薬によると思われる死亡が63件に達していた。
【事象】
タイプ1は膵島が壊れた糖尿病、タイプ2は、肥満・過食などのため、体内のインスリン必要量が増えてインスリン 生産が間に合わない糖尿病。トログリタゾンはそのタイプ2特効薬として、1996年に製造社のワーナー・ランバート 社が、FDAに認可申請、ファーストトラック(Fast Track)と呼ばれる認可スピードアップ制度により、 1997年1月には認可が下りた。

FDA には早くもその年10月にトログリタゾンによる肝機能障害で2件の糖尿病患者の死亡報告を受け取った。 その後、製造社、医者、国立保険研究所(NIH: National Institute of Health)、FDA、市民団体などによって討議ややり取りが続けられ、数回にわたり、FDAは製造社にトログリタゾンの ラベル表示に注意書きを加えるように指示、その後、製造社が意図的にトログリタゾンの不利になるような臨床実験 データを隠していたとの内部告発もあり、2000年3月21日にFDAが製造社にトログリタゾンをリコールするよう指示。 それまでに FDAが受け取ったトログリタゾンによる疾病者数は90、うち、死亡者報告数は63名。
くわしい【経過】はこちらから
【背景】
心理的背景については、特に記述がないが、情報源からの事実記述で推測すると、応力腐食割れについて検査や防食電流を流しているという油断があったのではないだろうか。ポリエチレンテープの問題が良くわかっていなかったということもあり、本事例は知識の発見のため、通らなければいけなかった経験の一つだろう。幸い、死傷者は現場作業員が軽症を負ったにとどまった。この事例をなるべく多くの人に知ってもらい、同じ原因による事故を防ぎたいものだ。
【対策】
ガス輸送会社では、自社のパイプラインを緊急に見直し、2本が近すぎないか、応力腐食割れはないか、原因となったポリエチレンテープが使われていないかなど、検査、修理プログラムを加速させた。さらに緊急時の対応手順を見直し、さらにシステムのソフトウェアも見直した。
【後日談】
事故で第5ラインも損傷していた。各ラインの生産復帰は、
第5ライン: 1995年8月 1日18:45
第3ライン: 1995年8月 1日06:45
第4ライン: 1995年8月12日17:46
【知識化】
緊急事態の対応では、いくら完全に考えたつもりでも、実際に緊急な状況に遭遇してみると周りの状況が余りにも通常時と違い、人の判断を誤らせることがある。また、そのような状況に陥ると人はパニックを起こしやすい。現実的な訓練、なるべく本当の緊急事態に近い状況を経験させるなど、何らかの工夫が必要だ。
【情報源】
  • http://www.rezulin-side-effects.com/
  • http://www.rezulinnet.org/