【概要】 本事例は、以前から問題があると指摘されていたボーイング社製747型旅客機の前方貨物室ドアにおいて、ボーイング社を始め、航空会社、FAA等が即時に対策を取らなかったため、ユナイテッド航空811便において、その前方貨物室ドア付近の胴体部分が剥がれ落ちるという事故が発生した事例である。 |
【事例発生日付】1989年2月24日、午前2時9分9秒[HST] 【事例発生地】ホノルル国際空国付近 【発生場所】太平洋上空、高度約22,000フィート 【死者数】9名(乗客) 【負傷者数】35名(乗客20名、客席乗務員15名) 【物的被害】パトリオット・ミサイル1機 |
【事象】 1989年2月24日、ユナイテッド航空811便はアメリカ、ハワイ州、ホノルル国際空港(HNL)を離陸後高度22,000フィート(約6700m)から23000フィート(約7000m)に達した際に、機内が急減圧を起こした。それは、811便の機体右側の前方貨物室ドア付近の胴体部分が剥がれ落ちた。その後、811便はホノルル国際空港に緊急着陸したが、機体前方の貨物室のドア付近に大きな穴が開いており、飛行中に同穴より乗客9名が機外へ吸い出され行方不明となる結果となった。 |
【経過】 1989年2月24日、ユナイテッド航空811便はアメリカ、カリフォルニア州、ロサンゼルス(LAX)からその経由地であるアメリカ、ハワイ州、ホノルル(HNL)とニュージーランド、オークランド(AKL)を経由して、最終目的地であるオーストラリア、シドニー(SYD)へ向かう予定であった。 811便はロサンゼルス国際空港(LAX)よりホノルル国際空国(HNL)までを順調に飛行し、その任務にあたっていた搭乗員からは異常は報告されていなかった。その後、ホノルル国際空港にて乗務員が入れ替わり、機長による出発前の確認が行われ、811便は同空港の10番搭乗口から、定刻より3分遅れの午前1時33分[現地時間]に次の目的地に向けて出発した。その時機内には乗務員3名、客席乗務員15名、そして乗客337名の計355名が搭乗していた。 811便に使用されていた機材は、アメリカのボーイング社によって1970年に製造された747-122(N4713U)型旅客機で、事故当時においては、既に58,815時間の飛行時間と15,028の飛行回数を持っていた。しかし、過去において事故の記録はなく、整備記録、点検記録においてもユナイテッド航空とFAA*1の規定の基で行われており問題は発見されていなかった。 811便はホノルル国際空港の管制塔より離陸の許可を受け、8L滑走路より午前1時52分49秒に離陸、その際に操縦桿を握っていたのは機長であった。その後、同機は上昇を続け、順調に飛行中であることを乗務員が管制塔に知らせるが、その飛行航路先にて雷雨が確認されたため、CERAP*2にその飛行航路の変更を要求している。離陸後からこの時点まで客室にはシートベルト着用のサインが点灯されていた。 乗務員によって最初の異常が確認されたのは同機が高度約22,000フィートから約23,000フィート、そして飛行速度が約300ノット*3に達したときであった。突然、大きな爆発音が機内に響き、その直後「Thump」*4という音がして機内が激しく揺れた。それは、811便の機体右側の前方貨物室ドア付近の胴体部分が剥がれ落ち、横約10フィート、縦約15フィートの大きな穴が生じたことからだった。これにより、右側の主翼前方部の一部が破壊され、その主翼にあった第3エンジンの異常がコックピットの掲示板に表示されたため、急遽エンジン・シャットダウン・チェック*5が乗務員によって行われ同エンジンは停止された。 その後、機長は直ちに同機の降下を始める。そして、同機は雷雨を避けるように機体を左へ180度旋回させ、ホノルル国際空港へ向けて航路を取った。副操縦士はCERAPに緊急事態発生により降下中のことを伝え、同時に第3エンジンが停止したことを伝える。航空機関士はコックピットを出て客室に行きその状況を確認後、機長に右側の機体前方に大きな穴が開いていることを伝える。その後、第4エンジンも第3エンジンと同等の問題が発生したため停止し、同機は着陸に備えて燃料の廃棄を開始し始めた。 811便はホノルル国際空港8L滑走路への着陸許可を受け、最終進入速度約190ノットから200ノットで進入、同機は4基のエンジンの内、第1、第2エンジンしか作動していなかったにも関わらず、同滑走路の先端より約1,000フィート(約300m)にて接地に成功、約7,000フィート(約2100m)滑走して停止した。午前2時34分であった。この事故により、乗客9名が胴体に生じた穴より機外へ吸い出され行方不明になった。そして、その後の救助活動において乗客は発見されることはなかった。 1990年7月22日、剥がれ落ちた機体前方貨物室ドアとその付近の胴体部分の捜索が事故発生現場付近の太平洋上にて開始された。この検索には、ユナイテッド航空、ボーイング社、FAA、NTSB*6が協賛して行われ、アメリカ海軍が所有する検索艇が使用された。その結果、1990年9月26日と10月1日に機体前方貨物室ドアは太平洋海底約14,200フィートから2部に分かれて発見された。 緊急着陸に成功した811便より回収されたボイスレコーダー(Cockpit Voice Recorder)には、同機にて減圧が発生した午前2時9分9秒と時をほぼ同じくして大きな爆発音が録音されていた。その爆発音は乗務員によって報告された「Thump」という音と思われるものの約1.5秒後に発生していたことが分かった。またその爆発音から約21.4秒間に渡りボイスレコーダーの情報は失われていた。 |
【背景】 1980年後期には、数々の航空機事故が発生しており、特に急減圧による事故が多発していた。そして、それら減圧事故を起こした機材の中にはユナイテッド航空811便が事故の際に使用していたものと同様のボーイング747型機が多く含まれていた。その代表的なものとされる事例は、1987年イギリス、スコットランドにて墜落したパン・アメリカン航空(Pan Am)103便である。当初、パン・アメリカン航空103便はテロリストにより爆破され墜落したとされたが、最近になって機体の破損状況が811便と類似していること、仕掛けられていたはずの爆弾が発見されなかったこと等から貨物室ドアに問題があった可能性が指摘されている。しかし、アメリカン航空103便事故では墜落前に乗務員からの連絡がなかったこと、生存者もいなかったこと等から不明な点が多い事故でもあった。 |
【後日談】 1990年7月22日、剥がれ落ちた機体前方貨物室ドアとその付近の胴体部分の捜索が、事故発生現場付近の太平洋上にて開始され、その結果、1990年9月26日と10月1日に機体前方貨物室ドアは太平洋海底約14,200フィートから2部に分かれて発見された。 |
【知識化】 ユナイテッド航空811便を始め、ボーイング社製747型機の貨物室ドアにおける事故が多発した背景には、1987年に発生したパン・アメリカン航空(Pan Am)103便の事故以来、同貨物室ドアに問題があることを認識しながらも、 ボーイング社、始めユナイテッド航空、FAAは即時に対策が取られなかったことがある。 本事例は、ボーイング747型機の製造元であるボーイング社を含む、各航空産業において、安全に対する姿勢が全面的 に問われた事例である。そして、各事故に対して、いかに徹底的な調査が行われ原因の究明が行われても、その調査結 果が同様の事故再発を防ぐために活用されないことには、調査が成功したとはいえないのではないだろうか。 |
【情報源】
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用語解説 |
*1FAA−Federal Aviation Administration. 連邦航空局 *2CERAP−ホノルル国際空港(HNL)のCombined Center Rader Approach Control *3ノット(Knot)ー航空機の速度。1ノットは1.857Km/h *4Thump−乗務員が状況説明の際に使用した言葉。ゴツン、ドシン、バンという音の意。 *5エンジン・シャットダウン・チェックーエンジンを停止させる際に行う手順 *6NTSB−National Transportation Safety Board.国家運輸安全委員会 |