失敗百選 〜SUVのトヨタ1994年製「4-Runner」の横転〜
失敗百選 〜SUVのトヨタ1994年製「4-Runner」の横転〜
| 【動機】 本事例は、利益ばかりを目的とした自動車産業の安全に対する姿勢が全面的に問われた事例である。 近年、ファミリー･カーの代名詞になりつつあるSUVSport Utility Vehicle)であるが、その背景には、車産業の情報コントロールが見え隠れしている。 |
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【日時】1995年5月28日の午後 【場所】米国オレゴン州395号線沿い 【死者数】0名 【負傷者数】4名 【物的被害】1994年トヨタ自動車製4-Runner、1台 【全経済損失】トヨタ自動車はMcCathern氏に7,650,000ドルの支払いを命じられた。 |
| 【事象】 1995年5月28日の午後、Elizabeth Sanders氏の運転するトヨタ自動車製、｢4-Runner｣はオレゴン州395号線で、 対向車を避けようとした際、横転事故にあった。この事故で、車体前方の屋根がつぶれ、助手席に座っていた McCathern氏が首などに後遺症を負い全身まひになった他、残り3名の同乗者も切り傷などを負った。 1996年1月、McCathern氏は、1994年トヨタ自動車製4-Runnerは、構造上横転する可能性があり｢Dangerously Defective｣欠陥で危険である)で｢Unreasonably Dangerous｣過度に危険である)と主張、 トヨタ自動車を相手取りオレゴン州Multnomah County 巡回裁判所*1に訴訟を起こした。その後、審理は同州Court of Appeals控訴裁判所)、Supreme Court最高裁判所)と上訴されたが、原告側の訴訟が認められ、 被告側であったトヨタ自動車に7,650,000ドルの支払いが命じられた。 |
| *1.オレゴン州Multnomah County 巡回裁判所−Trail Court予審法廷) |
| 【経過】 1995年5月28日の午後、Elizabeth Sanders氏の運転するトヨタ自動車製、｢4-Runner｣（日本名:ハイラックス･サーフ) はアメリカ合衆国オレゴン州の395号線を同州Portlandに向かって南下中であった。 同車には、Sanders氏の娘1人と、Sanders氏のいとこであるLinda McCathern氏、そして、そのMcCathern氏の娘が1人の合計4人が同乗していた。 トヨタ自動車が販売している4-Runnerは、オフロード環境での走行性能を追求した自動車で、 SUV（Sports Utility Vehicle)と呼ばれる部類に入る。一般的にSUVはその車幅に対し車高が高いため 重心位置が高くなり、一般車と比較すると横転する可能性が高いといわれている。 午後9時30分頃、4人を乗せた4-Runnerは見通しの良い395号線の平野を、そこの制限時速であった 時速約55マイル時速88km)で走行中に横転事故にあった。事故当日の天候は良好で路面も乾いた状態 であった。オレゴン州を南北に跨ぐ395号線は対面2車線の比較的広い舗装路で、事故付近の路肩にも 広く舗装されたものが設備されていた。同乗者の証言によると、前方よりSanders氏が運転する4-Runner に向かっていた対向車の1台が、同車の進行車線であった南車線に入ってきて、その進行車線を塞ぐような 形となった。そのため、同車の運転者であったSanders氏は路肩側へ右ハンドルを切り衝突を避け、続いて 路肩右方へ飛び出すことを避けるため左ハンドルを切りなおしたが、その直後に4-Runnerはバランスを崩し 道路左方の北車線を跨ぐような形で大きく左側にそれた。そして、車体を立て直そうとしたSanders氏が 右ハンドルを切った瞬間、同車は完全にコントロールを失い2回横転、車体の｢腹｣を上に向けた状態で道路 の真中に停止した。 この事故で、車体前方の屋根がつぶれ、助手席に座っていたMcCathern氏が首などに後遺症を負い全身まひになった他、残り3名の同乗者も切り傷などを負った。事故の原因となったとされる対向車は走り去り、現場に目撃者はいなかった。同乗者は全員シートベルトを着用していた。 |
| 【原因】 最近ではファミリー･カーとして人気の高いSUVだが、そもそもSUVはオフロード走行専用に設計され、 その車高は岩等を始め、オフロード地に存在する障害物と車体が接触することがないように、地面と 車体の間は十分な空間が設けられている。しかし、その高い車高によって、SUVの重心位置は一般車と 比較して高い。自動車の重心位置はその走行安定性と非常に深い関わりを持っており、一般的に重心 位置が低い自動車は高いものよりも安定した走行が可能である。更に、SUVのような重心位置が高い 自動車は横転事故を起こす可能性が非常に高く、一般車と比較するとその確立は3倍以上といわれている。 政府機関が行った安全テストによると、最も横転に対して安全なSUV、つまり、最もロールオーバー･レジスタンス *2の高いSUVでも、一般車の乗用車等と比較するとそのロールオーバー･レジスタンスは足元にも及ばないといわれている。 近年では毎年1万人を超える人々がSUVの横転事故で死亡しており、その数はSUVによる全体の死亡事故の約60％以上 を占めるが、一方で、車高の高いSUVは、その大きさや視界の良さから｢安全な自動車｣と誤認されていることも事実 である。しかし、SUVは多くの人々が信じているほど安全ではない。更に巨大なSUVは、事故の際に相手の自動車を 危険にさらす凶器にもなりかねない。 横転事故を起こした1994年型4-Runnerの車高は、車幅66.5インチ（168.91cm)に対して車高車体屋根まで67.3インチ(170.94cm)で、前方から見るとほぼ平方形である。そして、それは乗用車と比較すると重心位置が高い*3上に、車体総重量も約4,000ポンド（約1,800kg)と、一般乗用車に比較して重い*3ことが分かる。 SUVの横転事故で最も危険なことは、車体の屋根が衝撃で潰れること、そして、その横転中に車内の人が車体外投げ出されることである。その中で後者は、シートベルトを着用することである程度対策はとれるが、前者についてはあまり対策がない。通常、横転事故によって屋根が潰れると、車内の人間は頭部から首にかけてけがをする場合が多く、それは後遺症となって残ることが多い。 |
| *2.ロールオーバー･レジスタンス(Rollover Resistance)−自動車の横転に対する抵抗。この数字が高いと自動車は横転し難くなる。 |
| *3一般乗用車の総車両重量−アメリカにおいて一般車の一台とされるトヨタ自動車製｢Camry｣の車高 車体屋根まで)は58インチ147cm)、総車両重量は約3,000ポンド1350kg)。 |
| 【背景】 SUVの売り上げは1990年代前半より好調に伸びてきた。当初、SUVはオフロード走行性能を追及した 専門的な自動車として位置付けされ、一部の消費者から指示を受けてきたが、近年ではその車体の大 きさ等から人気が上昇し、現在ではファミリー･カーの代表となりつつある。 |
| 【対策】 トヨタ自動車は、1996年以降に発売された4-Runnerで、車高と車幅の改良を行った。それにより、1996年以降に発売された4-Runnerでは、低重心化が図られ、ハンドル操作性能の向上と共に、ロールオーバー･レジスタンスも向上し横転事故を起こす可能性が低くなった。また、近年では多くのSUVにStability Controlが採用されている。 |
| 【知識化】 ワシントンD.C.にあるAuto Safety CenterのClarenee Ditlow氏は｢sends a message to Toyota, the government and other auto manufactures to make SUV safer｣当裁判のトヨタ自動車への判決は、同車を始め、政府、そして他の自動車産業に安全なSUVの製造を呼びかけるメッセージだ)と語る。現在、自動車のエアバッグ等の標準装備化による事故対策は確実に進歩しているにもかかわらず、車体屋根の強度に対しての規制がないことが現状である。これらの規制等が未だに存在しない背景には、消費者による横転事故への関心が未だに少ないこと。そして、消費者の多くはSUVの危険性を正しく認識しておらず、安全面での誤解が多く存在すること等が上げられる。しかし、その根本的な原因は自動車産業により自らの利益確保目的のための情報コントロールが行われてきたことである。そして、自動車産業が同判決から学ぶべきことは多かったのではないだろうか。 |
【情報源】
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