【動機】 本事例は、古い航空機を危険と認識した上で使用を続けた航空会社と、航空機製造メーカーの安全に対する姿勢が全面的に問われる結果となった事例である。また、この事例は多くの航空専門家によっても注目をされ、その後、FAA*1によって行われている老朽機体の検査プログアムを徹底させるきっかけとなった。 |
【事例発生日付】 1988年4月28日 【事例発生地】 アメリカ合衆国、ハワイ州 【事例発生場所】 高度約24000フィート(7300m)の太平洋上空 【死者数】1名 【負傷者数】65名 【物的被害】アロハ航空会社ボーイング737-200(N73711)型機1機 |
【事象】 アロハ航空243便はアメリカ・ハワイ州ハワイ島Hilo空港から同州オアフ島Honolulu空港に向かい約24000フィート (7300m)を飛行中、機体前方部の屋根が剥がれ落ち、客席乗務員1名が機外へ飛ばされて死亡したほか、65名が重軽傷 を負った。NTSB*2がまとめた事故調査結果によると、原因は機体外板に使用されていた銅板の疲労と腐食により、 鋼板の継ぎ目が剥がれたとされている。 |
*1. FAA − Federal Aviation Administration(連邦航空局) *2. NTSB − National Transportation Safety Board(運輸安全委員会) |
【経過】 1988年4月28日午後1時25分[現地時間]、アメリカ・ハワイ州ハワイ島Hilo発同州オアフ島Honolulu行きのアロハ航空 243便ボーイング737-200型機はHiro空港を離陸、Honolulu空港に向かう航路をとった。その日の天候良好、機内には 乗務員5名、乗客89名、そして、FAA*1に所属するエア・トラフィック・コントローラーと呼ばれる人物が1名の計95名 が搭乗していた。アロハ航空243便は離陸後順調に高度約24000フィート(7300m)まで上昇を続け太平洋上空で水平飛行 に入ったが、その直後、機体上部が前方搭乗口付近から主翼前縁付近まで約18フィート(5.5m)に渡り剥がれ落ちた。 同機は午後13時58分にマウイのKahului空港に着陸したが、その事故により機内が急減圧を起こし座席の5列目付近で 機内サービスを行っていた客席乗務員1名が機体破損部より瞬時に外へ飛ばされ行方不明になったほか、乗客乗務員95名 のうち65名が重軽傷を負った。その後の調査によると、事故機が急減圧を起こした際、機内ではシートベルト着用の サインが点灯しており乗客全員は着席していたが、客室乗務員3名はそれぞれの位置で任務を行っており着席はしていな かったことが乗客によって確認されている。また、事故を起こしたボーイング737-200型機は、機内の急減圧により機体 の客室床が歪んだほか、それにより床下にあったエンジンの燃料制御ケーブルが切断され、減圧発生とほぼ同時に左エンジン が停止した。その客室床の歪みによる被害は機体の設計上許容されるものであったが、燃料制御ケーブル自体が腐食していた こともあり左エンジンが停止する結果となった。 アロハ航空243便は事故当日、すでにHonoluluからHilo、Maui、及び、Kaualの3区間を運航していたが、その時点では、 全ての飛行が順調であり、飛行機システムが正常だったことが確認されている。 |
【原因】 アロハ航空243便が使用していたボーイング737-200型機は、使用開始から19年が経過しており、飛行回数はボーイング 737-200型機の中でも第2番目に多かった。この事故調査を行ったNTSBによると、ボーイング737-200型機は75000回ま での飛行回数に耐えられるように設計されていたが、事故機は89680回の飛行回数記録を持っていたことから、機体外板 の継ぎ目部分に金属疲労および腐食が生じ、リベットが外れ、そのリベット孔沿いに発生したマルチプル・サイト・ダ メージが複数結合し、機体外板の継ぎ目から屋根と側壁を引き剥がしたと結論付けた。そのマルチプル・サイト・ダメ ージが複合結合して生じたと推測される亀裂は、出発前に搭乗中の乗客2名によって機体中央部客室ドア付近にあったこ とを目撃されていたが、乗務員には知らされなかった。さらに、その目撃者の証言から、その亀裂の長さは6インチから 8インチ(15cmから20cm)程あり、その亀裂からは機体内部のファイバー・グラスが覗いていたことが分かっている。 ボーイング社によると、ボーイング737-200型機の機体外板には厚さ0.036inchのアルミニウムを使用しており、例え 機体に長さ40インチ(約1m)の亀裂が入ったとしても、安全に減圧するように設計されていたと説明している。これは 「Safe Decompression」(安全減圧)機能と呼ばれ、生じた亀裂や穴は「Safe Decompression Flap」(安全減圧弁)として内部圧を制御する仕組みで機内を安全に減圧をするはずであった。しかし、 アロハ航空243便の事故では「Safe Decompression」機能は働かず、機体が広範囲にわたり破損し、機内では急減圧が 生じる結果となった。 この「Safe Decompression」が機能しなかった事に対してNTSBは、多数の亀裂が機体に存在したことが「Safe Decompression」機能に影響を与え、機内の急減圧につながったとされながらも、剥がれ落ちた機体を回収でき なかったこともあり、「Safe Decompression」が機能しなかった詳しい原因は明らかにされていない。 アロハ航空243便の機体には、事故の直接的な原因になったと推測される亀裂の以外に、2つの亀裂がS-10L沿いに 発見されたことが事故後の調査で分かっている。事故機の機体はBodySTA360とBodySTA540の間、S-17LとS-10Rの 間の機体外板が剥がれ落ちたが、その直接的な原因となった亀裂がこの様な状況になるまで発見できなかった原因 は、飛行スケジュールが変更できない状況下で、機体検査が主に夜間に行われ、充分な検査が行われていなかった ことや、運航間の機体の目視検査はFAAで要求されておらず実行されていなかったことにあると思われる。 しかし、ここ近年、当事故の更なる原因解明のかぎとなると説が浮上し、一部のNTSB関係者の間でも有力視されはじめている。 |
【背景】 アロハ航空は主にハワイ諸島間の短距離航空便を提供しており、その運航に世界で最も飛行回数の多いボーイング737-200型機を数機使用していた。事故に遭遇したボーイング737-200型機も1969年にアメリカのボーイング社によって製造されたもので、主にハワイの島間の定期旅客機として使用されていたが、世界中のボーイング737-200型機の中でも2番目に飛行回数の多い機体であったことから、ボーイング社やFAAからも疲労によるひび割れなどの検査を充分に行なうよう指示が出ていた。アロハ航空もそれに従って検査を行なっていたが、検査からは特に問題が発見されず使用を続けていた。事故機は事故当日の早朝にも、機長と副操縦士によって機体の目視検査が行われているが、問題は発見出来ていない。 |
【後日談】 ボイラー検査官であったMatt Austin氏は、アロハ航空機243便事故が非常にボイラーの爆発事故に似ていたことから関心を持ち、今日まで独自に事故調査を行ってきた。彼がまとめた調査結果によると、アロハ航空機243便は、亀裂によって開いた穴から強力な空気の流れが生じ、それが客席乗務員の体を浮かし穴まで運び、体が穴をふさぐ流体ハンマー(Fluid Hammer)現象を引き起こし、機体が破壊したと述べている。 Austin氏によると、アロハ航空機243便の事故原因は機体の老朽化がすべてではないという。彼は、ボーイング社の「Safe Decompression」(安全減圧)機能に問題があったと指摘する。事故機は、なぜ「Safe Decompression」機能の「Safe Decompression Flap」(安全減圧弁)、つまり、なぜ機内が安全に減圧するための「Flap」(弁)となる穴が開かずに機体が広範囲に渡り破壊したのか。実は、ボーイング社の設計どおり、機体のBodySTA500付近に10インチ程の「Flap」が開いたと彼は考える。しかし彼は、「もしも、高度24000フィートで機体に10インチの穴が開いたらどうなるか。」と問う。 事故発生当時、アロハ航空243便の機体には約10インチ程の穴がBody Station 500とS10Lの付近に開いていたとAustin氏は考える。その機体に開いた穴は「Safe Decompression Flap」として作用し安全に機内を減圧するはずであった。しかし、機体に開いた穴からは機内の空気が時速700マイル(時速1120km)という猛スピードのジェット気流となって流れ出だし、それによって付近に立っていた客室乗務員が、瞬時に「Safe Decompression Flap」の穴に吸い込まれる形となったが、穴に吸い込まれた客室乗務員は瞬時には機体外に吸い出されず、右腕と頭部のみが穴から機体外へ出た状態、つまり、体で穴をふさぐ状態になったと推測する。この現象は流体ハンマーと呼ばれ、Austin氏の専門分野であるボイラーの爆発事故によく見られる現象である。流体ハンマーは、ある空間から猛スピードで流れ出すジェット気流によりドアなどが勢い良く閉ると同じ現象である。 事故当時、アロハ航空243便の機体はマルチプル・サイト・ダメージにより、ひどく劣化していたほか、もともとボーイング737-200型機の機体は約8.5ポンド/平方インチまでの機体内外の気圧差に耐えられるようにしか設計されておらず、その8.5ポンド/平方インチという気圧差は、ほぼ通常での状態のものにしかすぎなかった。そのような機体のコンディションで発生した、瞬時、そして局部的に数百ポンド/平方インチという莫大な圧力がかかる流体ハンマー現象が、アロハ航空243便の大惨事を招いた主な原因と思われる。客席乗務員が「Safe Decompression Flap」にはまった状態でも、機体内外の気圧差から機内の空気は機外へ流れだそうとして、機体の強度が一番弱い部分に圧力が集中し始める。それは、Body Station360からBody Station500間のBody Station440とS10L付近だった推測され、ここから機体外板が剥がれ落ちたと思われる。 次の瞬間、アロハ航空243便は機首を少し下げ、少し右に傾いた状態になる。これは、機内の空気が機外へ流れ出す力によるものだと考えられ、それにより、「Safe Decompression Flap」の穴をふさいだ状態であった客席乗務員が後方へ少しずつ滑り始め、機体S10Lの結合部分が引き裂かれ始めた。このとき客室乗務員は、まだ機体外板にはまった状態であった。 その後、Body Station360からBody Station500の間の機体外板はS10Lの結合部から、さまざまな方向に分解を始める。また客室乗務員の体がはまっていた穴付近のBody Station 500とS10Lの下方結合部では、機体外板が後方に折れ曲がる形となり、それによって客室乗務員の体が約1フィート(30cm)下にスライドすることになる。これがAustin氏がよぶ、「Halo of Blood」である。それは、客席6Bに座っていた乗客の洋服が血で染まっていた事実や、機体に付着した客席乗務員のものと思われる血痕などから、客席乗務員が穴をふさいだことによって流体ハンマー現象が起こったとする彼の説を裏付けている。 Austin氏はこの研究を通して、必要なメンテナンスがすべて行われたとしても、古い旅客機を飛ばすことは安全でないことを確信したという。また、彼は、FAAの「Aging Aircraft Program」 (航空会社が古い旅客機を点検、修理をする方法)は廃棄されるべきであるという。そのプログラムは、全ての構造上の異常を発見できない可能性がある検査官に頼る方法であり、危険であると彼は指摘する。 さらにAustin氏によると、そもそも「Safe decompression」機能は、壊れるまで旅客機を飛ばすという哲学を前提に作られたものだと言う。また彼は、このような事故はわれわれが過去から学ばないかぎり繰り返されるであろうと予測する。 アロハ航空243便の事故を調査した一人で、元NTSB捜査官のBrian Richardson氏は、FAAはAustin氏の理論を研究するべきであると言う。また、Richardson氏はAustin氏に宛てた手紙の中で、「私はあなたの努力と目標は立派だと思う。航空産業は、これからも油断をしてこのような事故を繰り返さないためにも、常に過去に起きたことを思い起こさせられる必要がある。信じてほしい。私は、このような環境、つまり、10 億分の1いう非常に少ない確率に目を背けようとする航空産業で働いている一人でも、その確率は、実際に事故に遭遇した人々にとっては何の意味も持たず、それ以上に事故が起こったという事実が大切だということを認識している。」と記している。 |
【対策】 現在、アロハ航空は事故に遭遇したボーイング737-200型機「basic」は使用しておらず、代わりに、同社737-200型機「advanced」が使用されている。 (写真:事故に遭遇した同型のアロハ航空ボーイング737-200型機・ 写真提供:松浦成宏http://www5a.biglobe.ne.jp/~shiggy/aircraft2.htmより) |
【知識化】 この事例は多くの航空専門家によっても注目をされ、その後FAAが行っている老朽機体の検査プログアムを徹底させるきっかけとなったが、例え必要なメンテナンスがすべて行われたとしても、古い旅客機を飛ばすことは決して安全とは言えない。またFAAが行っている「Aging Aircraft Program」では全ての構造上の異常を発見できない可能性も残るため、航空会社は古い旅客機を使用しないことが望ましい。 |
【情報源】
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