失敗百選 〜広島新交通システムの橋桁落下(1991)〜

【事例発生日付】1991年3月14日

【事例発生場所】広島県広島市安佐南区

【事例概要】
広島市の新交通システムの建設現場で、作業方法が未熟であったため、橋脚上で降下中の橋桁が突然落下し、 県道上の11台の車両を押しつぶし、一般市民10名を含む15名が死亡、8名が重軽傷を負った。

【事象】
広島市の新交通システムの建設現場で、橋脚上で降下中の橋桁が落下し、県道上の11台の車両を押しつぶし、 一般市民10名を含む15名が死亡、8名が重軽傷を負った。
【経過】
事故の発生した工区では、新交通システムが県道の上を通る。架設用地を十分に確保できなかったことから、 橋の主桁を「横取り降下工法(注)」と呼ぶ方法で架設していた。
3月13日までに、この桁の横取りを終了していた。
3月14日、橋脚上の仮受け台とジャッキとに交互に荷重を預けながら、主桁を支承上に降ろす作業をしていた。
1巡目の降下作業を東側橋脚、中央橋脚の順に終えてから、西側橋脚上でジャッキアップし、仮受け台のH形鋼を1段抜いて、 仮受け台を組み直していたところ、突然主桁が橋軸回りに半回転しながら県道に落下した。 長さ約63m、重さ約59トンの橋桁は、県道上で信号待ちしていた11台の車両を押しつぶした。 一般市民10名を含む15名が死亡、8名が重軽傷を負った。
(注)横取り降下工法-橋桁を橋脚上で橋脚に直角方向に移動したあと、各橋脚で順々に、橋桁を一定量ずつ(例えばH形鋼1段分など)降下させる作業を繰り返す工法である。
【原因】
@ 仮受け台のH形鋼を1段抜いて、仮受け台を組み直していた際、主桁を支えていた3台のジャッキのうち2台のいずれかで支 点反力が変化し、ジャッキの耐荷力を超えた。そのため、もう1つのジャッキも主桁の重みを支え切れなくなり、2台のジャッキ の受け台がほぼ同時に座屈したためである。
A ジャッキの受け台が倒壊したのは、受け台のH形鋼を井桁状ではなく、同方向に一列に積んでいたことが一因であった。
B 横取り降下工法の工事に習熟していない作業員が携わっていた。約20名の作業員の経験年数を調べると、半数近くが 20年以上のベテランだったが、橋の架設工事を行った経験は殆どなかった。
C サクラダは、それまで橋本体の架設工事で契約たことのなかった川鉄物流を、この工事で初めて下請け会社として使った。
D 工事着工前の施工方法の検討も不十分で、転倒防止用のワイヤを張らずに、桁を単独で降ろした。
E 県道の通行規制をしていなかったため、第三者の一般市民も巻き添えにした。
【対処】
建設省は、事故の状況の把握、原因の究明のために、事故直後直ちに担当官三名を現地に派遣し調査を開始した。また、事業主体の広島市は、事故原因を究明するために、学識経験者等から成ります広島新交通システム事故対策技術委員会を設置した。
【対策】
管理体制の強化のための組織改革として、市川工場の1部門であった橋梁工事部を工場と同等の組織として独立させた。
1996年4月には、現場の安全に対する監視機能の強化のため、安全を専門に担当する安全管理室を設けた。
下請け会社の選定をA、B、C、Dの4ランクに格付けし、基本的にはA、B両ランクの会社としか契約しないことにした。 1991年10月に「セーフティ・アセスメント」と呼ばれる手法、施工計画の作成時に、工事の危険度を定量的に評価してランク 付けし、必要な対策を検討する、例えば、ランクの高い危険な工事にはベテラン技術者を派遣するほか、現場の職員数を増や すなど、である。
【背景】
工事は広島市の発注で、元請会社はサクラダ(本社、千葉市)で、一次下請け会社として川鉄物流(本社、神戸市)、 二次下請けとして大成建設工業(本社、山口県徳山市)などが工事を担当していた。      
【知識化】
@ 業務の下請け構造は、他人任せとなり脆弱な結果を生むことになる。
A 経験不足は危険を招く。リストラによるベテランの減少は大きな問題を抱えることになりそうである。
B 建設現場は危険と隣り合わせである。できるだけ避けるべきである。工事中のビルからの落下物など、 多くの事故が発生している。
【総括】
本事故は、一般市民まで巻き込んだため、大きくマスコミに取上げられたが、その要因としては、ヒューマンエラーが 最大であった。
建設業界特有の発注者、元請け、一次下請け、2次下請けと階層構造による工事での施工管理体制の問題点が浮き 彫りとなった事故である。

<引用文献>
   建設事故 重大災害70例に学ぶ再発防止策 広島新交通システム橋桁落下 日経コンストラクション編
以上