【事例発生日付】2002年10月1日 【事例発生場所】茨城県潮来市 【事例概要】 茨城県潮来市延方で、台風21号の強風によって、水田地帯に設置された275kV送電線「香取線」の鉄塔8基 (高さ約39〜94m)のうち、6基の鉄塔が倒壊、残り2基は折損した。 さらに、66kV送電線「湖南線」の鉄塔1基(鹿嶋市鰐川)折損、1基倒壊した。鹿嶋、龍ヶ崎市、神栖町などの計 198,000世帯が約1時間20分〜5時間45分にわたって停電した。鉄塔の基礎工事の不備が原因と推定される。 【事象】 茨城県潮来市延方で、水田地帯に設置された275kV送電線「香取線」の鉄塔8基(高さ約39〜94m)のうち、No.22鉄塔が 強風により、設計値を下回る風圧荷重下で風上側2脚の基礎が浮上がり最初に風下側に倒壊(推定)。 No.22鉄塔の倒壊により、送電線に引張られて隣接するNo.21、23、24の3基が風下側に倒壊、これら4基に隣接し送電線屈 曲部に位置するNo.20、25の2基は風上側に倒壊した。No.22以外は地上14〜17mで折れて倒壊。鹿嶋市鰐川のNo.19(高さ約67m) は高さ約46m付近で折損。さらに、66kV送電線「湖南線」の鉄塔No22(鹿嶋市鰐川)折損、No.23倒壊(潮来市延方)。鹿嶋、 龍ヶ崎市、神栖町などの計198,000世帯が約1時間20分〜5時間45分にわたって停電した。 |
【経過】 10月1日21:40頃(21:27頃)、台風の進行方向右側に当たる茨城県潮来市延方で、水田地帯に設置された275kV 送電線「香取線」の鉄塔8基(高さ約39〜94m)のうち、No.22鉄塔が強風により、設計値を下回る風圧荷重下で風上 側2脚の基礎が浮上がり最初に風下側に倒壊(推定)。 No.22鉄塔の倒壊により、送電線に引張られて隣接するNo.21、23、24の3基が風下側に倒壊、これら4基に隣接し送 電線屈曲部に位置するNo.20、25の2基は風上側に倒壊した。No.22以外は地上14〜17mで折れて倒壊。鹿嶋市鰐川の No.19(高さ約67m)は高さ約46m付近で折損した。 さらに、66kV送電線「湖南線」の鉄塔No22(鹿嶋市鰐川)折損、No.23倒壊(潮来市延方)。これにより、鹿嶋、 龍ヶ崎市、神栖町などの計198,000世帯が約1時間20分〜5時間45分にわたって停電。潮来市では1基が有料道路 「水郷道路」をふさいだ。 付近の倒壊しなかった送電鉄塔上部(地上68.5m)に東京電力が設置していた風速計は、21:12に最大瞬間風速56.7m/s (南南東)を記録。 茨城県潮来市、鹿嶋市、神栖町付近の10分間の平均風速を近くの観測値から推定すると、20:00 頃は15m/s前後の南東風、21:00頃は25m/s前後の非常に強い南風、22:00頃は20m/s前後の南西風、最大瞬間風速は、 10分間平均風速の1.2〜2倍として30〜50m/s(気象庁による推定)。また、21:20に銚子で52.2m/s、勝浦で50.5m/sの 過去最高の最大瞬間風速を記録していた。 【原因】 No.22鉄塔の井筒基礎工事において、井筒(円筒形プレキャストコンクリート、外径2m)先端部で筒径より大きめに土砂 を掘削して摩擦を減らしながら井筒を円滑に沈下させ、沈下後に筒外側と地盤との間の摩擦力を高めるためにグラウト (セメントと水、混和剤、砂などを混ぜてできた液)を注入した。しかし、基礎周辺が粘度の小さい砂質地盤だったため、 グラウト層がほとんど形成されず、基礎と地盤間の極限摩擦力が設計値を下回り、引上げ耐力も設計値より小さくなった ためである。 【対処】 原子力安全・保安院は、鉄塔損壊の原因について究明するため、送電線鉄塔倒壊事故調査ワーキンググループを原子力 安全・保安部会電力安全小委員会に設置し現地調査、解析、審議を開始した。 その結果、既存の送電線鉄塔のうち、井筒基礎を用いて設置されている送電線鉄塔について、その基礎および周辺の状況 (建物の有無など)について調査し、設計耐力と同等以上かを検証し、不足する場合は補強することを決めた。 【対策】 井筒基礎を用いた送電線鉄塔を新設する場合には、井筒基礎の特徴を十分踏まえ、安全かつ合理的な設計、施工、 管理の徹底することを決定した。 【背景】 倒壊した9基は1970〜72年に設置されたものだが、電気事業法で定めた電気設備技術基準による、「地上15mで10分 間の平均風速40mに耐える構造」の強度基準を満たし、秒速60mの突風や変動する風速にも耐えられる設計だった。 東京電力は川沿いの倒壊現場では基準以上の強度にしていた。 送電線用の鉄塔は茨城県内に約5,500基あり、年4回、定期的に目視で点検している。被害を受けた9基も2002年7月 に点検していた。 |
【知識化】 @ 周辺の状況を考慮しない一律的な工事は、強度不足を招く恐れがある。 A 技術基準・設計基準はあくまでも基準であって、安全を保証するものではない。 B 不具合対策は、事故原因の対策に限定されてしまう。検討の過程で出てきた項目も含めて対策されるべきである。 |
【総括】 直接の原因はもちろん関東地方を直撃した台風21号の暴風であったが、送電用の鉄塔が9本も折れたり曲がったり するなど予想もしない事態が起きた。送電線の近くには住宅もあり、地域住民からは将来に向けての不安の声が上 がった出来事であった。当初、電気事業法の技術基準や電力会社の設計基準は、風の吹き方の変化(強さや方向など) を考慮していないとの指摘も専門家の間に上がったが、今回の原因は鉄塔基礎工事の欠陥という別の要素が原因であ った。しかし、だからといって専門家の指摘を無視するわけにはいかない。 以上 |