失敗百選 〜解体途中の中座が爆発(2002)〜

【事例発生日付】2002年9月9日

【事例発生場所】大阪市中央区

【事例概要】
大阪府の劇場「中座」の解体作業中、機械室で大きな爆発音とともに炎上した。誤った配管図のもとでの作業に加え、 ガス漏れに対する不適切な処置などが原因であった。中座東側のうどん店が入る8階建て雑居ビルに延焼、ほぼ全焼し たほか、南側の通称「法善寺横丁」の16店の大半にも延焼。爆発の影響で、周辺のビルにガラス窓が割れるなどした。

【事象】
大阪府の劇場「中座」の解体作業中、機械室で大きな爆発音とともに炎上した。中座東側のうどん店が入る8階建て雑 居ビルに延焼、ほぼ全焼したほか、南側の通称「法善寺横丁」の16店の大半にも延焼。爆発の影響で、周辺のビルに ガラス窓が割れるなどした。
【経過】
1956年、劇場「中座」(1945年3月13日の空襲で焼失、1948年1月に再建、地上4階・地下 1階)の建物西側にガス本管を敷設。本管から建物西側への引込み管(口径8pの鋼管にアスファルト・ジュード巻付け。1977 年以降は使用されていない製法)が地下90pに埋設され、機械室にあるバルブに接続された。
1974年頃、本管から建物北側への引き込み管が埋設され、1階エントランスにあるバルブに接続さ れた。この結果、本管からの引き込み管が北側と西側の2か所になった。
1975〜1976年、大阪ガスは天然ガスへの切り替えを機に、公共性の高い大規模建築物や地下街の 配管図を作製・保管開始。
1976年8月、中座は、再建当時の図面が残されていなかったため、大阪ガスが調査して新たにガス 配管図を作製.北側の引込み管が機械室のバルブに接続されていると誤って記載された(実際は西側の引込み管に接続)。
1986年、改修工事で楽屋の補修や客席の椅子を取換えた際、空調設備をガスに一本化(それまで は暖房がボイラー、冷房が電気)。その際、工事に立ち会った大阪ガスの担当者が図面のミスに気づいたが、修正せず、誤り を放置。
1999年10月、老朽化や客離れなどで松竹の合理化方針に伴い、中座閉館。
2002年9月1日、解体作業開始。 担当の大阪ガス大阪事業本部保安指令センターの社員は、ガス配管図は建物施工時のものではないと分かっていたことなど から、図面の信用性に疑問を持っていたが改めて調査しなかった。また、作業前の打ち合わせでも、ことさら言うことでは ないと思い、このことを下請け業者に伝えなかった。
9月9日、建物解体時のガス管内の残留ガス排出作業(ガス抜き作業、ガス吸引作業)に ついて は、大阪ガスの担当者が、安全確保のため現場で指導する予定だったが、下請け業者の大阪装置建設および大晃設備(とも に大阪ガス指定工事会社)の作業員は、たまたま作業前の立ち会いに訪れた設備会社(内管工事)の作業員を、大阪ガス関 係者と同じ作業着姿だった上、建物の鍵を持つ(別会社の)人を連れていたため、大阪ガスの代理人と誤解。この作業員に 機械室のバルブ開閉を任せ、中座の北西隅に吸引器を設置。
01:00頃、下請け業者は大阪ガスの図面をもとに、北側の引込み管が機械室バルブに接 続されていると思い込んで本管から切断。下請け業者の現場責任者2人は、事前に現場で配管を確認するよう、大阪ガスの マニュアルで定められていたが、確認せず、記載漏れのガス管があることに気づかなかった。
03:00頃、大阪ガスに連絡しないまま、建物内のガス管の中に滞留しているガスを吸い 取る作業を2時間繰り上げて開始。大阪ガスのマニュアルでは、吸引器を使う場合は「異状が発生すれば直ちに無線機や トランシーバーなどで連絡し、退却等適正な措置を指示する」と定められていたが、設備会社は作業員2人(31、26)に無線機 などを持たせないままバルブの開放を指示。バルブ開放により、外から吸い込まれる空気の圧力で管内の残留ガスを排出 する手順になっていた。
03:05頃、作業員2人は楽屋棟1階機械室(ボイラー室)に入り、ガスを吸引しやすく するため、ガスの本管から切り離されていたと思い込んで、1人がバルブを開けた。このバルブは、西側本管から機械室へ の引込み管に接続されていたが、この引込み管は図面になかったため本管から切断されておらず、大量のガスが噴出。換 気設備がなかった機械室にガスが充満。作業員は検知器でガスの放出を確認。
03:10頃、作業員は無線機などを持っていなかったため、1人が異状を知らせるために、 いったん戸外に出て、吸引器の設置された北西角まで行き、戸外にいた下請け作業員(現場責任者)に「ガスがおして いる」と、業界用語でガス漏れの可能性を指摘したが、「問題ない」とされ、作業を続行した。作業員は機械室に戻っ てバルブを閉めた。その際、同作業員は、機械室(火気厳禁)で、暗闇で落とした懐中電灯を捜すためライターを着火。 大きな爆発音とともに炎上。中座東側のうどん店が入る8階建て雑居ビルに延焼、ほぼ全焼したほか、南側の通称「法善 寺横丁」の16店の大半にも延焼。爆発の影響で、周辺のビルにガラス窓が割れるなどした。
08:30、ガス本管閉栓完了、火災鎮圧。18:25、鎮火した。

【原因】
@ ガス爆発の直接原因
ガス設備会社の作業員が、ガス噴出に気づきながらバルブを数分間開放し、ガスが充満したボイラー室(火気厳禁) でライターを着火したため、爆発を引き起こした。
A ガス漏れへの不適切な対応
ガス抜き工事を担当した下請けと孫請け会社(いずれも大阪ガス指定工事会社)の現場責任者2人は、ガス漏れや出火 を防ぐ注意義務があり、事前に現場で配管を確認するよう、大阪ガスのマニュアルで定められているにもかかわらず、 確認を怠り、さらに、ボイラー室でバルブを開閉した作業員が異臭を訴えたのに、工事を中止しなかった。
B 工事発注者側のミス
大阪ガスが誤った配管図に基づいて工事を発注してしまった。また、改修工事の際、工事に立ち会った大阪ガスの担当 者が図面のミスに気づいたが、修正せず、誤りを放置してしまった。さらに、解体工事の際、ガス配管図は建物施工時 のものではないと分かっていたことなどから、図面の信用性に疑問を持っていたが改めて調査しなかった。また、作業 前の打ち合わせでも、ことさら言うことではないと思い、このことを下請け業者に伝えなかった。

【対処】
大阪ガスを中心として事故の原因調査、被害者への対応がなされた。

【対策】
@ 同種事故の再発防止対策教育の実施
    ・ 従来のマニュアルに中から、今回の事故に関連する作業要領、注意事項をまとめて 「供給管(道路から建物へ引き込むためのガス管)および灯外内管(ガス使用者の敷地境界線からメーターガス栓ま でのガス管)のガス管撤去作業」に特化した冊子を作成し、ガス工事関係者全員への再教育の実施。主な内容は、作 業ごとの配管系統確認方法や異常時の措置、火気使用禁止等の作業全般に関わる注意事項である。
    ・ 再発防止策の徹底確認のため同年の冬期中の同種工事について、大阪ガス社員 による全数現場点検の実施。
    ・ 定期的に実施している各工事資格のフォローアップ講習における、再教育の徹底。
A 現地調査による配管系統の再確認
    ・ 過去に現地調査により内管図面を作成した1982年6月以前の建物の内、地下街、 公共用建物、業務用建物、1階に店舗がある集合住宅などで、複数のメーターを有する建物約5.2万棟について、 2004年3月までに現地調査による配管系統の再確認を実施する。
 

【背景】
「中座」は江戸時代の1653年3月に「中之芝居」として現在の場所に開かれ、当時は大歌舞伎を上演していたため 多くの人に愛されていたが、1945年戦災で消失したが1948年1月に新築された。戦前は名優中村雁治郎の拠点、戦 後は藤山寛美ら松竹新喜劇のホームグラウンドにもなった。しかし、戦後の老朽化や松竹の合理化などで、1999年 10月に閉館し346年の歴史に幕を閉じていた。
【知識化】
@ プロの作業員も信じられない行為をすることがある。(本当はプロでないのかも)
A 事故は、いくつかの回避チャンスをかいくぐって発生する。
B 「おかしいな」「変だな」と思ったら、対応が不可欠である。「何とかなるだろう」「誰かが対応するだろう」 は事故のもとである。
【総括】
今回の火災は繁華街におけるガス爆発の炎上により短時間で広範囲に延焼拡大した。何度も配管図の違いに気 づきながら放置し、最後にはガス漏れを知りながらライターを着火するなど完全にヒューマンエラーによる信 じられない事故といえる。

以上