失敗百選 〜下水道のマンホールの蓋が飛散(2002)〜

【事例発生日付】2002年6月13日

【事例発生場所】東京都板橋区

【事例概要】
マンホール(直径75p)の蓋(約80kg)が鉄製の枠や周辺のアスファルト舗装もろともドーンという音とともに数m飛 び上がり(総重量約200kg)、約1mわきにとめてあった自転車を直撃、4台破損。周囲の道路が直径約2mにわたり陥没。 下水道から硫化水素やメタンガスが漏れ、一時付近に悪臭が漂った。貯留池と沈砂池の水位差が逆転し、下水の逆流に よって波立ち現象が発生し、上流側の雨天時流入管内に空気混入したため、雨天時流入管内の水の比重低下に伴い封水 圧低下。上流側封水圧が管内圧力を抑えきれなくなり、高圧空気が上流側マンホールに噴出したものと推定される。

【事象】
マンホール(直径75p)の蓋(約80kg)が鉄製の枠や周辺のアスファルト舗装もろともドーンという音とともに数m飛び 上がり(総重量約200kg)、約1mわきにとめてあった自転車を直撃、4台破損。周囲の道路が直径約2mにわたり陥没した。 下水道から硫化水素やメタンガスが漏れ、一時付近に悪臭が漂った。
【経過】
2001年8月15日、新河岸東処理場へ流下する赤橋幹線下水道で、エアクッション サイフォン(ACS)管の高圧空気漏洩により(推定)、新河岸大橋たもとのACS管端部、板橋区前野町3丁目の首都高 速5号線高架下を通る区道の歩道上など、板橋区及び北区内の3箇所のマンホールで蓋が裏返しになったりした。 東京都は、ACS管内の空気圧力を弱めるなどしたほか、前野町のマンホール蓋については、高圧の空気に耐えられる よう金属とコンクリートの枠で従来より強く固定するタイプに変更していた。
2002年6月13日07:02、新河岸東処理場で、流量調整のため、貯留池から沈砂池 へ下水送水開始した(この時の上下流水位差0.52m)。
07:07、新河岸川下のACS管内水位がシーバー(水位自動制御装置、エアクッション内 の余剰空気を排出する装置)の設定水位より高くなったため、エアコンプレッサー運転を開始した。
07:40、貯留池から沈砂池への送水が進み、沈砂池水位(下流側)が1.03m上昇した結果、 上流側の赤羽幹線マンホール水位より0.01m高くなり、上下流の水位が逆転。このため、下流に向かっていた下水が停滞、 または逆流。
07:42、貯留池からの送水を停止した。
07:43、サイフォン部上下流の水位差が最大(0.03m)となった。下水の逆流によって波立ち現 象が発生し、上流側の雨天時流入管内に空気混入したため、雨天時流入管内の水の比重低下に伴い封水圧が低下した(推定)。
07:45頃、上流側封水圧が管内圧力を抑えきれなくなり、高圧空気が上流側 マンホールに噴出。2001年8月15日に事故のあった前野町3丁目のマンホール(直径75p)から高圧空気が噴出。 蓋(約80kg)が鉄製の枠や周辺のアスファルト舗装もろともドーンという音とともに数m飛び上がり(総重量約200kg)、 約1mわきにとめてあった自転車を直撃、4台破損。周囲の道路が直径約2mにわたり陥没した。 下水道から硫化水素やメタンガスが漏れ、一時付近に悪臭が漂った。事故前後には通勤や通学の歩行者が多数現場を通っ ており、惨事につながる可能性もあった。 前野町3丁目の事故現場から約1km離れた東坂下1丁目(板橋幹線上)でも、マンホール蓋が浮上がり、周囲のコンクリー ト枠(角蓋)が破損した。
<エアクッションサイフォン(ACS)>
下水管を河川などの下を通す際、両岸側の浅い下水管と河川下の深い下水道とでサイフォンを構成して下水を流す方法において、雨水との合流式の場合、晴天時に下水量が少ないため毎秒20p程度しか流れず土砂やごみなどが堆積しやすいため、流下能力の低下や悪臭及び腐食性ガスの発生などの可能性がある。そこで、両端に比べて深くなっている伏越し管内にコンプレッサーで高圧空気を送入し、エアクッションにより下水を押しつけることで流れを早めて土砂やごみの堆積を防止する。高圧空気は伏越し部の両端の湾曲部にたまる水で水封する。雨天時には、流入側の水位検知により排気バルブを開いて高圧空気を逃し、全断面で下水を通す。
<流量調整>
新河岸東処理場では、計画処理水量(20万立方m/日)に対し、平均流入水量が約4万立方m/日と少ない。特に早朝(5:00〜7:00頃)と夕方(16:00〜18:00頃)の時間帯は、水量の低下ともに高濃度の下水が流入する傾向がある。このため、揚水した貯流水を沈砂池に送水して流量調整を行い、処理水量の平準化と処理水質の向上を図っている。
<封水圧>
ACS管内の空気が抜け出ないように封じ込めるための水圧、上流側では流入管内にある下水、下流側では流出管内にある下水がその水圧を確保している。
【原因】
貯留池から沈砂池への送水によって、ACS管下流側に接続する処理場沈砂池水位が上昇し、ACS管の上流側マンホール と下流側沈砂池の水位が逆転した。このため、下水が下流側沈砂池から上流側へ逆流したことが、空気流出の原因である。

【対処】
前野町4丁目のマンホールは浮上防止蓋(圧力型)から浮上防止蓋(圧力開放型)に取替、アスファルト舗装を復旧した。 東坂下1丁目はコンクリート枠を補修し、枠(角蓋)にアンカーを設置した。 また、マンホール蓋飛散事故対策検討委員会を設置、事故当日の運転状況や運転データをもとに、空気流出時の現象を整 理し、空気流出の原因特定を行なった。

【対策】
@ 空気流出防止対策
    ・ ACS運転の安定性を損なうことのないように、貯留池から沈砂池へ送水しない運転方法 に改善するとともに、送水ルートを別途確保する。
    ・ 逆流が起きた際に下水管の空気を抜く自動制御装置を設置する。
A バックアップ対策
    ・ 万一、ACS管内から漏気した場合でも、空気をマンホール蓋から 安全に逃がすように、マンホール蓋を格子状の浮上防止蓋(圧力開放型)に改造する。
 

【背景】
駒場ダム(堰堤)は、堰本体越流頂までの高さ9.11m、長さ36.9m。最大出力5,600Kwの発電を目的に建設した 取水堰。並列する洪水吐ゲート(幅16.082m×高さ4.90m)2門と流量調節ゲート(幅1.1m、高さ1.15m)を有する。 1937年10月から運転開始していた。
ゲート自動操作システムは1997年4月から導入されていたが、コンピュータの急速な発達とともに、自動操作システム は猛烈なスピードで導入されていた。
【知識化】
@ コンピュータ制御での不具合は、ある日突然起こる場合がある。
A 操作方法のある組み合わせでの予想外の誤動作となる場合がある。仮想演習の徹底が不可欠である。
B 異常時における多重安全策が非常に重要である。
C 保安面を考慮した停止と復帰のあり方が大切である。特にマンマシーンインターフェイスが大切である。
D 緊急時の通知・通報、連絡訓練の充実が大切である。
【総括】
このゲート自動操作システムは、ソフトの開発者(松下通信工業)が1997年4月に導入され、導入後、2001年 秋に一部ソフト改良が行なわれたが、特に何の問題も発生していなかった。それが突然今回の事故が発生した。 幸い人命にかかわる被害はなかったものの一つ間違えば重大事故につながる可能性があった。また、マンマシー ンインターフェイスの重要性を再認識させる事故でもあった。

以上