【事例発生日付】 1992年11月17日(訴訟開始時点) 【事例発生場所】アメリカ 【事例概要】 米ゼネラル・モーターズ(GM)の、側面からの衝撃でタンクが破損し、火災が発生する危険性がある1973年から 1987年製のピックアップトラック470万台に対して、米政府はGMに対してリコールせず、和解した。 【事象】 1989年、少年(17)が運転していた1985年製GMCピックアップトラックが、飲酒運転の車に側面から時速70マイル (約110km/h)で衝突され、側面のガソリンタンクに引火、火災が発生し、少年が死亡した。 米ゼネラル・モーターズ(GM)の同様の火災が発生する危険性がある1973年から1987年製のピックアップトラック 470万台に対して、米政府はGMに対してリコールせず、和解した。 |
【経過】 米ゼネラル・モーターズ(GM)が、1973年から1987年にかけて、ガソリン収容量を大きくするため、ガソリンタンクが車体骨組みの外側両わきに配置したフルサイズ・ピックアップトラック(シボレー、GMCの2車種)を計470万台製造していた。 フォードなど他のビッグスリーはこの型の生産を1970年代で打ち切っていた。 GMは、テストの結果、側面からの衝撃でタンクが破損し、火災が発生する危険性があることを知っていたが、連邦安全基準に合格しているとして放置していた。 1992年11月17日(判明)、GMは、欠陥を知りながら放置し、事故の被害者から100件を超える損害賠償請求訴訟が起こされた。 1993年2月4日、1989年の少年の死亡事故の原因はガソリンタンクを危険な位置に配置していたことによるとして、両親がGMを訴えていた裁判で、ジョージア州フルトン郡上級裁判所陪審員はGMの製造責任を認め、実際の損害賠償424万ドルと懲罰的損害賠償1億100万ドルの計1億524万ドルを両親に支払うよう求める評決を言い渡した。 1件の事故としては過去最高水準の賠償額であった。 審理では、GMの元技術者が、GMは、テストで引火しやすいとの結果が出ており、欠陥を知りながら放置していたことを証言した。 |
【原因】 @ ダメージの受けやすい車体骨組みの外側にガソリンタンクを配置した。 A GMはテストでこの構造では引火しやすいとの結果が出ていたにもかかわらず、対策が取られなかった。技術者が提案する安全よりもマネジメントが主張するコストが優先した。 B 他社が70年代で同型の生産を打ち切ったにもかかわらず、生産販売を続行し損害を大きくした。 |
【対処】 1993年5月9日、米道路交通安全局(NHTSA)は、消費者の批判を受け、安全性チェックのため 側面衝突試験など独自の試験・調査の結果、GM車の火災危険性は同サイズのフォード社製比べ2.4倍高いとして、同型の全車470 万台のリコール(米自動車史上最大級)をGMに要請した。 1993年5月2日(報道)、GMは、側面タンク型トラックは既存のすべての安全基準を満たしている とした上で、生産が停止されてから6年間何の通告もなかったうえ、衝突車の速度が基準を大きく上回っているなど当局の調査の やり方にも問題があるとして、リコール要請を拒否した。 自動車メーカーが当局のリコール勧告に応じないのは異例のこと。 全台数をリコールすれば3〜10億ドルの費用が見込まれる。 1993年7月19日、GMは、トラック所有者全員に1,000ドルの証券(470万台で総額47億ドル) を発行して和解することを発表した。この証券はGMの新型トラックを購入する際に現金化され、事実上値引き販売となる。 1994年10月18日、NHTSAは、GMが1973〜1987年に生産したC/Kピックアップトラックに欠陥が あったと公表した。 1994年12月2日、NHTSAは、GMが今後5100万ドルを投じて安全性の調査研究を実施することで、 GMにリコール命令しないことで和解した。 |
【対策】 出荷車に対する技術的な対策はとられなかった。 |
【背景】 米国は1960年代半ばに、世界に先駆けて製造物責任(PL、英米法上の厳格責任)を導入して以来、PLの先進国として PL訴訟件数は増加し、賠償金額も高額化し100万ドルを超える評決件数も1971年の13件から1991年には750件に達していた。 また、自動車PLでの超高額評決としては1978年のフォード・ピント訴訟(約1.3億ドル)、1983年のフォード・ムスタング U訴訟(約1億ドル)があった。 また、当時米自動車市場における日本からの輸入乗用車の増加(全米シェア約3割)が、米自動車不況の要因の一つとして GM、フォード、クライスラーのビッグ3が日本の輸入乗用車に対するダンピング(不当廉売)提訴を検討し、当時のクリン トン政権に保護主義的な政策を取るように揺さぶりをかけていた時期でもあった。本衝突火災事故での損害賠償対応がきっ かけでこの提訴が見送りになったとの見方もある。 |
【知識化】 @ 存の安全基準に合致しているから大丈夫とはいいきれない。 A 全性をお金で解決しても大きなしっぺ返しが来る。 B 目の前の得が結局は大損になる危険性がある。 C 火は小さいうちに消せ。疑問点は早めに対応することが大切である。 D 大手企業の横暴が通ることがある。不買運動などで対処するしかなさそうである。 |
【総括】 1億524万ドルの損害賠償訴訟のあと、米3大テレビ・ネットワークのひとつであるNBCが看板番組の「デートライン」で衝突実験を放映し、派手に燃え上がるシーンで衝撃を与えた。この衝突実験の際にタンクに模型のロケットエンジンをテープで貼り付け衝突と同時に発火させ「やらせ」だとしてGMがNBCを訴えた(結局は和解であった)。 このことも消費者の反発を大きくし、その後の対応状況に大きく影響したと考えられる。 目の前の損得勘定が、結局は大きなツケとなることを教えてくれる事例である。 それにしても、リコールを拒否できることなど日本では考えにくい。やはり米国は訴訟と取引の国なのであろうか。 以上 |