【概要】 火力発電所において60万kW蒸気タービンの試運転中、 タービン軸および発電機軸が破損した。タービン、発電機、 励磁機の各部が損壊し飛散するとともに、発電機から火災が発生した。 バランス調整不良に起因した振れ回りによる共振が原因であった。 【日時】 1972年6月5日 【場所】 和歌山県関西電力海南火力発電所 【事象】 関西電力海南火力発電所の3号機60万kW蒸気タービンの試運転中、 タービン軸および発電機軸が破損した。タービン、発電機、 励磁機の各部が損壊し飛散するとともに、発電機から火災が発生した。 【経過】 蒸気タービンは、図1のようにタービンから発電機まで、 合計9本の軸が軸継手でつながれ、それらをNo.1からNo.11までの、 11個の軸受で支える構造であった。これらの各機器は工場でそれぞれバランス調整され、 4月から現場で組み立てて運転調整が行なわれてきた。 事故当日の6月5日までに計62回のバランス調整を行なったが、 5月27日以降、No.11の軸受台の振動が大きかった。 事故当日までに定格速度(3,600rpm)のバランス調整試験が終了したので、 当日は最大負荷である3,850〜3,900rpmの振動状態を調べる実験を行なった。 回転数を3,850rpmまで上昇させた後、減速操作に入ったときに「ゴー」 という異常音が発生したので、タービンのトリップ操作(緊急回転停止操作)を行なった。 異常音を聞いてから数秒後に、発電機軸端部(図1のNo.10付近)から赤い炎が発生したため、 蒸気発生のボイラーの火を落とし圧力を下げようとした。その直後、「ドン」「ドン」 という音とともに、タービン、発電機、励磁機の各部が損壊し飛散するとともに、 発電機から再び火災が発生した。破壊後の状態を図2、図3に示す。 飛んだ部品の飛距離は図4に示すが、その最遠距離は380mもあった。 No.11の軸受では、軸受台と上部軸受パッドを固定する、 ハウジングとの取付不良に加え、バランス調整を行なっているときの振動が誘因となって、 上部軸受パッド(ジャーナル軸受の上半分)が脱落した。この結果、回転系危険速度 (共振周波数)が低下して、軸系の共振が容易に発生した。その後異常な振動を誘発し、 軸受やハウジング、ボルトに塑性変形や弛みを起こした。軸受の振動がさらに増大すると、 給油機構の損傷によって給油が止り、一部の軸受メタルが溶けて喪失した。 また別の軸受では大振動によって軸受メタルの剥離や変形が起こり、 さらに軸受の破損によって軸自身の支持を失って軸系の芯ずれを起こし、 回転軸系全体が損壊した。最後に発電機の軸受やシールが破損した結果、 発電機内の水素ガスが吹き出し、それが何かに引火し炎が発生した。 発電機では風損(回転機が気体中で回転するときの攪拌ロス)を減らすために、 軽くて摩擦損失の小さい水素ガスを発電機内に封入している。また、 この水素ガスで内部の熱を外部に放出している。 【対処】 全部の機器を作り直し、軸受据え付けを、 振動に対して十分な配慮をしながら、対策を実施した。 【対策】 バランス調整を各装置単体で行なうとともに、 軸継手で連結するたびにバランス調整を正確に行い、 全体を組み立てた後であちこちいじらなくてもよいようにした。 【総括】 高速で回転する装置における事故の怖さを示すものである。 飛散物の飛距離を見てもそのすごさが分かる。飛散物の方向に人がおればひとたまりもない。 怪我人は無かったのは不幸中の幸いであった。なお、 5月27日にNo.11の軸受台の振動が大きくなっているが、 この変化に対してなにも対応せず、そのまま試験が続行された事実も見逃せない。 【知識化】
【背景】 当時、蒸気タービンは外国企業との技術提携によって、 生産が行なわれており、自主技術の確立がなされていなかった。 さらに多軸受系のバランス調整技術もまだ確立していなかった。 このため、現地で組み立てた後の調整でうまく行かなかった場合、 装置単体を改めて工場に持ち帰って調整するしか方法がなかった。 【引用文献】 畑村洋太郎編著、実際の設計研究会著:続々・実際の設計、日刊工業新聞社(1996) |