失敗百選 〜富士重レガシィのアクセル緩まず、リコール隠し〜

【事例発生日時】1999年1月13日

【経過】
1996年10月7日9:10頃: 滋賀県守山市石田町の市道T字路で,オートマチックの富士重工業の乗用車「スバル・ニューレガシィ」 を運転していた男性(24)が,時速約80kmで前の車を追い越した際,アクセルから足を離した後もエンジン回転数が上がった状態で 減速できなくなった.ブレーキを踏んだが停止せず,大型ダンプに接触した後,交差点に飛び出し,対向してきたミニバイクと正 面衝突,同市内のミニバイクの女性(62)が足の骨を折るなど重傷.

11月11日: 滋賀県警の依頼で警察庁科学警察研究所が鑑定,富士重工業社員も立ち会った.

11月21日: 富士重工業は,事故車両と同時期(1993年9月〜1994年3月)に製造されたレガシィ1252台のリコール(回収・無償修理)を運輸省に 届け出た.約1000台が欠陥車のまま発売されていた.

1997年3月10日: 滋賀県警は捜査本部(31人体制)を設置.

捜査の結果,同様のトラブルが1994年1月,岡山,千葉両県で発生し,本社に苦情が寄せられたが内密に処理されていたことが判明.

7月〜: 県警の情報をもとに,運輸省は,富士重工業の本社や工場などを立ち入り検査した結果,欠陥隠しが判明. 事故原因となった欠陥のほかにも多岐にわたる不具合が発覚し,同省の警告を受けた同社は,延べ11車種147万台余り についてリコールを届け出た.

11月7日: 運輸省は,富士重工業に対し,道路運送車両法違反の罰則適用を東京地裁に通知.同時に再発防止に向けた 総点検を業界に指示.

このためもあって,1997年度のリコール対象台数は過去最多の259万台となった.

1998年3月11日: 滋賀県警が同型車を使用した再現実験などを行い最終鑑定.

4月20日: 東京地裁は富士重工業に過料140万円(7件分)の支払いを命じる決定.

運輸省は,リコール隠しについて道路運送車両法の罰則を強化,過料を1件20万円から100万円に上げた.

1999年1月13日: 滋賀県警は,事故の主原因が速度制御装置の欠陥と断定し,事故発生の危険性を十分認識しながら,営業上のマイナスを 心配して運輸省にリコールを届けなかったため事故が起きたとして,富士重工業の当時の品質保証本部の幹部2人を業務上 過失傷害容疑で大津地検に書類送検.1969年にリコール制度が設けられてから,欠陥隠しによる交通事故でメーカー関係 者の刑事責任が問われたのは始めて.

2000年3月29日: 大津地検,業務上過失傷害の罪で同社の品質管理責任者だった元品質保証本部副本部長(63)と元同本部品質保証部長(60) を略式起訴(求刑罰金各50万円).

4月5日: 大津簡裁は,業務上過失傷害罪に問われた同社品質保証本部の元副本部長と元品質保証部長に対し,それぞれ罰金 50万円の略式命令を下した.

【欠陥隠しの経過】

1993年10月20日: スバル・ニューレガシィ発売

1994年1月6日: 岡山のディーラーから富士重工業に「アクセルを緩めたのに減速せず,ブレーキを踏んでも停止できなかった」 という技術連絡書が届いた.

1月20日: 千葉のディーラーから「アクセルを数回踏むと,エンジンの回転数が急に上がった」という技術連絡書が届いた.

1月26日: 富士重工業は2つの技術連絡書をもとに調査,市場品質改善会議(現場社員が中心)を開き,リコール実施で一致.

2月10日: 富士重工業の安全部会(品質保証部長を責任者に,品質保証,サービス,設計部門などの課長らで構成)を開催. 同社のリコールは,リコールが必要かどうかを審議・判断する安全部会からリコール委員会,常務会を経て決定される. しかし,技術的な知識が必要なことから,実質的には安全部会で方針が決まっていた.

サービス部門などからは「危険性が高いのでリコールすべきだ」との声が高かったが,品質管理部長らは「レガシィは社運 をかけていた車で,この時期のリコールはイメージダウンになる上,営業マンの販売意欲に水を差す」として,回収率9割 以上になるリコールをせず,ユーザーが申し出た際のみ対策を講じるという,回収率1割程度と予想される「B対策」を決定. 1996年の事故までに約8%が回収された.

品質管理部長らは,欠陥のあることを上層部に報告しなかった.

【原因】(警察庁科学警察研究所鑑定による)
事故車には,一定のスピードで走れる自動定速走行装置(オート・クルーズ・コントロール)が付いていたが,本来は一緒に回転してはならないアクセル用レバーと速度制御装置用レバーが,構造上の欠陥から共回りする現象が起きた.この状態でアクセルを強く踏んでエンジンの回転が急激に上がると,速度制御装置用レバーのフックの形状が不適切なため,同レバーと速度制御装置(エンジンへ送る混合気の量を調節する「スロットルボディ」)をつなぐケーブルが緩んで外れ,同装置のフックに引っかかり,スイッチを押したときと同じように燃料を送る調整弁が開いたままの状態になり,アクセルを離しても,踏み込んだときと同じようにブレーキが利かなくなり,エンジンが異常に高回転になる欠陥があった.レバー設計ミスによる. 以上