【事例発生日時】1999年11月22日 【停電地域】東京都の練馬,世田谷,港,豊島など10区,多摩地域の武蔵野,三鷹など12市,埼玉県の川越,入間など8市1町. 【経過】 11月22日 13:42: 入間基地を13:02に離陸した航空自衛隊練習機T33が,入間川を横切る東電の送電線を切断して, その先約150m南の入間川河川敷に墜落. 東京電力の275kVの特別高圧送電線(南狭山線・4本1組)と避雷線1本の計5本切断.切れた電線が鉄塔から垂れ下がり,同じ鉄塔の下方に張られた埼玉県内に電気を供給する66kVの送電線(日高線)に接触.計80万世帯・事業所が停電. 送電停止と同時に,南狭山変電所(狭山市)の総合制御所と,東京都千代田区にある東京本店の中央給電所(管内の電力供給を管理)など数カ所で,同時に異常を示す信号を確認. 13:49〜: 復旧開始.9本ある放射状の送電線のうち,別の線を使って電力を供給するように順次,送電ルートを切り替え. 都心の一部は10分前後で送電再開.27分後までに,埼玉県の一部(日高線の供給分)等を除く約70万軒の送電再開.全面復旧まで約2時間,狭山市などでは約3時間20分. 【デパート】 池袋の東武,西武,三越では全館停電したがすぐに非常灯がつき混乱はなかった.東武デパートではエレベーター2基に5人が閉じ込められたが,間もなく救出. 【エレベーター】 東京消防庁には15件の通報が寄せられ,23人が一時エレベーターに閉じ込められたが,救出または自力で脱出. 【水 道】 都内では,上井草,練馬の2給水所と,世田谷区の砧浄水場,杉並区の高井戸ポンプ場の4施設が停電で機能停止.給水地域(杉並,世田谷区全域と,練馬,中野,目黒,大田区の大部分)の約433万戸のうち,33万戸で一時減水または断水.20〜30分で通電・復旧したが,水圧の変化から水道管の内側に付着した赤さびが流出,一部地域で濁水が出た.「水が出にくい」「濁っている」といった問い合わせが約380件あった. 【鉄 道】 営団地下鉄有楽町線,都営地下鉄12号線,西武池袋・新宿線,東武東上線,東急世田谷線が全線で,JR武蔵野線下り・東所沢―府中本町間と小田急線一部区間で7〜30分間運行停止.65,000人に影響. 切符代金支払いに使われるJR東日本の「ビューカード」システムに使われるホストコンピューター電源が停止したため,14:00から19分間,JR東日本管内の首都圏732駅のみどりの窓口で同カードによる特急券や指定券の購入不能. 【交通信号】 都内で509基,埼玉県内で142基の信号機が作動停止,各地で渋滞.警察官が手信号で交通整理. 【金融機関】 都銀のATMが一時停止,自家発電で1分後には大半が復旧.墜落現場に近い第一勧業銀行新所沢支店狭山出張所(埼玉県狭山市)は13:45から約3時間にわたり停電が続いた.同行は都内から自家発電機を積んだ車を派遣したが渋滞で間に合わず,懐中電灯などで業務継続.野村証券のATMが埼玉県所沢市や世田谷区など6店で一時停止.都内と埼玉県西部の特定郵便局289局で,窓口端末機やATMなど747台のオンライン端末が10分〜3時間停止. 東京証券取引所は,システム停止で取引ができない会員が多数にのぼったため,業務規定に従い,14:12〜14:45までの約30分間,国債など債券先物オプション取引を停止.この業務規定は,2000年問題への危機管理計画の一環として定められていた. 【病 院】 停電地域にある41箇所の重点医療機関(都内に119箇所)のうち10病院が停電したが,自家発電装置が作動するなどして医療には影響がなかった(都衛生局の電話調査による).東京都豊島区内の病院で,患者が手術室で麻酔をかけられた直後に停電.手術室には自家発電設備がなく,約30分後の通電を待って手術実施. 【酸素吸入停止】 埼玉県狭山市で自宅で酸素吸入をしていた女性(83)と男性(74)が吸入器停止で一時的に呼吸困難に陥り,救急車で病院に搬送され,1人が呼吸不全で入院. 【役 所】 練馬区では同区豊玉北の区役所本庁舎を含め17出張所すべてでオンラインが最大1時間30分停止.住民票などの発行業務ができなくなった.板橋区では,18箇所の出張所のうち3箇所が約20分間にわたり交付業務停止.世田谷区では,10出張所と総合支所2箇所で最長約35分にわたり業務停止.豊島区では,5出張所と西部保健福祉センターでオンラインが約30分間停止.杉並区では,本庁コンピューターの一部に影響が出て,12箇所で交付業務停止. 【学 校】 杉並区では,小中学校67校のうち22校が停電,「給食のリフトが止まった」「チャイムが鳴らない」「非常放送が使えない」などの影響があり,下校時間を遅らせる学校もあった. 17:01: 全面復旧. 11月23日: 東京電力は早朝から高圧送電線の修理をし,夕刻までにほぼ作業終了. 14.3.3 停電復旧に時間を要した原因 a.すべての架線が送電停止 事故にあった鉄塔上部には,電線4本を1組に束ねた275kVの高圧送電線(南狭山線)が,上相,中相,下相の3本ずつ北側と南側に通っていた.下部には埼玉県南部に電力を供給する66kVの低圧の送電線(日高線)が同様に上相,中相,下相の3本ずつ北側と南側に張られていた.北側と南側の両側に電線を併設することで,片側の電線に障害が起きても送電ができるバックアップシステムになっていた. 自衛隊機は,北側の最上部に張られていた避雷線1本と南狭山線の南側上相の1組4本の計5本を切断,垂れ下がった電線が下方に張られた日高線に接触してショートするおそれが出た. 送電線に異常が発生して電圧や電流が急変したり途切れたりすると電気は自動的に切られ,自動的に送電線の状態を確認して他のルートを選んだり,異常がないことを確かめて再接続するようになっている.雷の場合は電線は切れず一時的な送電線の異常で済むことが多いため,再接続で復旧する. しかし,今回の事故では断線した上,垂れ下がった電線が接触しすべての送電停止.このため自動的な再接続では復旧せず,送電ルートの切り替えは手作業で行われた. b.手作業で復旧 首都圏の電力は,二重に設置された500kVの高電圧環状線と,その内側に放射状に張られた275kVの送電線のネットワークで供給されている.今回,切断された南狭山線は,埼玉県所沢市の新所沢変電所から都心へ送電する放射状の送電線の1本. さらに各地域には,放射状の送電線から分岐した網の目状の送電線で電気が送られ,どこの地域にどのルートを使って供給するかは,季節や時間に応じて常に変化.停電になった地域は,たまたま事故のあった高圧の南狭山線から送電を受けていた地域だった.南狭山線の断線に対応するには,電力需給のバランスを保ちながら慎重にう回路をつなぐ必要があり,電話で変電所への安全確認をしながら約30分かけて行われた. 一方,日高線は,網の目状の送電システムの中には組み込まれておらず,事故が起きたときに手動で接続してう回路をつくる.末端の変電所や電線のネットワークでう回路をつくり順次復旧していったが,電気が流れすぎないよう安全を確認してから順次切り替えていくため時間がかかった. さらに,現場での日高線復旧が必要になったため,14:00過ぎに現場に最も近い所沢工務所から作業員がパトカーの先導を受けて現場に向かった.しかし,渋滞のため現場に到着したのが15:37,作業終了は16:32となった. 以上 |