【事例発生日付】1999年7月12日 【事例発生場所】福井県敦賀市 【事例概要】 敦賀原発2号機の原子炉格納容器内で一次冷却水51トン漏れる。熱交換器が内筒と外筒を持つ2重構造で、高温と低温の冷却水が交互に流れて「高サイクル熱疲労」で配管に亀裂が発生した。 【事象】 敦賀原発2号機の原子炉格納容器内で一次冷却水51トン漏れる。配管に亀裂が発生した。 |
【経過】 日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機(加圧水型、定格出力116万キロワット)で、定格出力にて運転中のところ、 1999年7月12日6:05、原子炉格納容器内のCループ室前通路及びDループ室前通路に設置されている火災報知器が動作する とともに、併せて格納容器内サンプ水位上昇率高を示す警報が発生し、原子炉格納容器内じんあい放射線モニタ等の指示値 に上昇が確認された。このため、点検、調査を実施することを決めた。 6:24〜、出力降下を開始した。 6:48、原子炉を手動停止した。 17:00、原子炉が冷温停止状態(約93℃)に到達した後、 18:45〜、格納容器内に立入り、点検を実施した結果、 19:20頃、化学体積制御系の再生熱交換器近傍の保温材部分から1次冷却材が漏えいして いるのを発見した。 20:16、漏えい箇所についての系統隔離を実施した。 20:29、交換器の前後にある配管バルブ2箇所を遠隔操作で締め、一次冷却水の漏えいの 停止を確認した。 22:00〜、格納容器内サンプ及び床面に貯まっている漏えい水に対して液体廃棄物処理系への移送を行った。 7月13日0:00頃、保温材を撤去し、当該部分を点検したところ、同再生熱交換器を つなぐ配管表面に約80mmのひびが確認された。 15:40、 漏出した一次冷却水50.96tの回収を終了した。 高温の一次冷却水の一部が水蒸気になって空調設備を通って原子炉格納容器内の5層 すべてのフロアに拡散し、全体が放射性物質で汚染された。地下2階の半分は漏れた 一次冷却水で冠水し、社内の保安規定で最も汚染度が高い「赤区域」(40ベクレル/平方p 以上)。漏えい配管の真下の床は400〜1000ベクレル/平方p2以上であった。原子炉格納容器内で最も放射能汚染のひどかった場所は、漏えい箇所真下の地下2階のループ室で約46,000ベクレル、同様に冷却水が貯まっていた地下2階の通路で約2,800ベクレルなど、数箇所が1,000ベクレル以上であった。 なお、原子炉等規制法に基づく保安規定管理基準の上限値は4ベクレル/平方pである。 |
【原因】 1.中段再生熱交換器の胴と内筒支持リングとの隙間不適切・・・・・製作ミス 一次冷却水が蒸気発生器から原子炉に戻る途中の「化学体積制御系」内の、3段ある再生 熱交換器のうち、中段の再生熱交換器の胴と内筒支持リングとの隙間が設計目標値の2mm より約1mm大きく、バイパス流量が設計想定値の約23%より多い約40%になっていた。 このため、胴の下部にバイパス流の低温領域が顕著に生成・消滅するようになった。 また、上部の隙間の方が下より広く、内筒支持リングが下に偏心していた。 このため、内筒内で冷やされるべき低温の冷却水(本流)の流量が減り、本流の温度が設計目標値の185℃より低い170℃になった。このため、バイパス流の高温の冷却水(250℃)との温度差は、設計目標値の65℃より大きい80℃に拡大した。 2.「高サイクル熱疲労」の蓄積・・・・・予想外の環境条件 バイパス流では、高温の冷却水が再生熱交換器上部の隙間に多く流入したため、再生熱 交換器の胴本体の上部が温められ下側より膨張。この結果、上部の外筒と内筒の隙間が 狭まると同時に下の隙間が広がり、内筒支持リングが上に偏心した。すると今度は高温の 冷却水が下を多く流れ、胴の下部が温められて膨張。内筒支持リングが再度下に偏心し、胴本体の変形が元に戻る。――というように約10分間隔で変化するフローパターンの変動 が発生。これにより、バイパス流と主流の合流部でも,L字形連絡配管及び胴本体の温度分布が同様の周期で変化.また,高温のバイパス流と低温の主流の合流部では,設計目標値以上の温度差のある高温と低温の冷却水が混合し、10〜20秒間周期で交互に金属に接していた。約10分周期と10〜20秒周期の温度変化が、運転開始以来12年間(約95,000時間)に10万回以上繰り返された結果、再生熱交換器の胴の内面やL字形連結配管に、熱による膨張と収縮を繰り返して疲労強度を上回る応力が繰り返し加わる「高サイクル熱疲労」が蓄積され、小亀裂が多数発生。特にL字形連結配管で亀裂が進展した。 3.配管材料選定ミス・・・・・負荷条件過少見積り 配管の材料は、ステンレスにモリブデンを加えた「SUS316」。このステンレスには耐熱性を高めるため炭素が混ぜてあるため、結晶粒界にクロム炭化物ができ、その周りのクロム含有率が下がって一定値を下回ると急激に腐食が進む特性がある。製造した住友金属工業は、1983年3月の納入時に超音波や特殊な液体を使って傷の検査をしたが問題はなかった。 炭素の代わりに窒素を混ぜて結晶粒界腐食を起きにくくしたステンレスが沸騰水型原発 では使われているが、加圧水型原発は応力が沸騰水型ほど大きくないとして採用されなかった。 4.定期検査対象外・・・・・経時変化見落とし 熱交換器の内部点検は定期検査の対象外で,稼動開始以来1度も行なわれなかった。 5.被害拡大防止策不適切・・・・・事故時の対応手順不足 高温の一次冷却水の一部が水蒸気になって空調設備を通って原子炉格納容器内の5層 すべてのフロアに拡散し、全体が放射性物質で汚染された。 |
【対処】 (1)発電所における再生熱交換器に関する調査実施 @ 再生熱交換器胴本体の超音波探傷試験および寸法調査 A 再生熱交換器下段支持脚と架台の拘束状況調査 (2)民間調査機関等での調査実施 @ 破面に関する調査(SUS316についての疲労試験) A 引張り試験(当該エルボ及び管台からの試験片による調査) B 管台サーマルスリーブに関する調査(サーマルスリーブの周方向温度差の調査) (3)損傷要因分析および解析評価の実施 (4)運転履歴調査の実施 |
【対策】 (1)再生熱交換機の取替 @ 内筒を有しない構造の熱交換機に取替える。 A 念のため、高サイクル熱疲労に関する評価を実施する。 B 製作にあたっては、構造上確認すべき寸法に加え、性能上確認すべき寸法を確認する。 C 試運転には、熱交換器胴および連絡配管の温度確認を追加する。 (2)自主検査の充実 @ 熱サイクル疲労割れの発生防止のため検査対象個所を抽出し、点検を実施する。 A 念のため、第3種管に関する検査の充実(格納容器内の第3種管のうち第1種管 (1次冷却水が流れている部分については、第1種管並に超音波探傷を実施) B 内筒付きの再生熱交換器については、5年毎に超音波探傷検査を実施 (3)漏えい量を少なくするための監視機能の充実や運転手順書の整備 (4)除染作業の機械化 (5)検査方法の高度化(超音波探傷検査等の非破壊検査技術の高度化の観点から、自動化適用範囲の拡大、異種金属溶接部等の欠陥検出精度の向上等の技術改善など) |
【背景】 日本では、石油依存度を下げるべく石油代替エネルギーの有力な一つとして原子力発電があり、1961年に東海発電所(出力16.6万kw)の建設に着手し、1966年7月に日本で初めての商業用原子力発電所として営業運転を開始している。 以来各電力会社によって建設が行われ、2002年8月現在には、53基の原子力発電所が全国に広く分布し運転を行っており、4基が建設中である。原子力においては、安全確保が第一であり、製作、施工、運転、保守管理において細心の注意を払い事故・故障・トラブルの発生そのものを防止すなわち予防保全に徹することが重要である。 |
【知識化】 @ 些細な違いが大きな事故の原因となる。 A 不具合発生メカニズムを想定する。 B 機械・装置は必ず劣化する。不具合の兆候をモニターする。ただし、モニターする範囲が大切。 |
【総括】 本事例は、「高サイクル熱疲労」による事故であったが、その発端はほんの1mmの寸法違いであった。1mmの違いが広範囲の放射能汚染という大きな事故につながるという原発事故の怖さを示している。この事故から何を学ぶかということになるが、この「高サイクル熱疲労」は結局、機械不具合の代表選手の一つ「振動」である。振動は至るところに発生し悪影響を及ぼしている。(逆に利用する場合もあるが)振動が発生する要因まで徹底的に追及しないとこの発生メカニズムの想定には到達しない。(今回は熱であった) また事故の未然防止からは、機械・装置は必ず劣化することを考えると、不具合の兆候を如何に把握するかということになる。そのため点検作業の重要性は言うまでもないが、点検範囲そのものの見直しが大切となる。もちろん、非破壊検査技術のレベルアップも不可欠である。 以上 |