【事例発生日付】1999年6月下旬 【事例発生場所】愛知県名古屋市 【事例概要】 民家の24時間風呂の浴槽で水中出産された女児が生後8日目で死亡した。風呂で繁殖したレジオネラ菌感染が原因であった。 【事象】 母親が自宅の24時間風呂の浴槽で、女児を水中出産したが、生後8日目に死亡した。 |
【経過】 1997年頃、名古屋市内の母親が、知人に勧められ、24時間風呂を使った水中出産を勧める民間団体「育児文化研究所」 のセミナーに参加していた。セミナーでは、病院での出産は陣痛促進剤の使用や会陰切開が不必要に行なわれていると 批判。医療関係者の立会いを排除し、夫婦や家族だけでの出産を奨励していた。当時、研究所で推薦された湯を循環さ せて使う「24時間風呂」を購入し使用していた。 1999年6月下旬、名古屋市内の自宅で、「24時間風呂」を使用し、夫婦だけで女児を水中出産した。 生後8日目に女児がぐったりしているのに母親が気づき、名古屋第二赤十字病院に救急車で運びこんだが、すでに心臓が 止まっていた。 24時間風呂のレジオネラ菌が原因とみられる新生児の死亡は国内で初めてであった。 |
【原因】 1.「24時間風呂」でのレジオネラ菌繁殖・・・・・誤認知 レジオネラ菌が繁殖していると気づいていなかった。 2夫婦だけでの分娩・・・・・事前検討不足 分娩がどれだけ正常と思われても、急に赤ちゃんが危険な状態になったり、出血が起きる可能性はゼロでない。 医師や助産婦などが立ち会わない分娩のリスクである。 3水中出産に24時間風呂を使用・・・・・安全意識不良 水中出産では、風呂に湯を沸かす必要があるが、夫婦だけで自宅出産する際、急に陣痛が来たときでも湯を沸かす 手間が省けるとして、「育児文化研究所」は24時間風呂の購入を勧めていた。 |
【対処】 1.病院が自宅の風呂の水を民間の検査センターで調べた。水100cc中に約1万4600個の菌が発見された。 2.名古屋市が東京の国立感染症研究所で女児の病理組織を調査した。 レジオネラ菌の一種が発見された。 3.愛知県周産期医療協議会が臨時会合を開催した。 医学的根拠の薄い育児文化研究所の出産指導などに、重大な問題があると重視して、出産や治療にかかわった 医師や助産婦を招き調査検討した。また、「家庭用の24時間風呂では、完全な殺菌消毒はできない」との理由から、 出産の際の使用禁止を求めた。 |
【対策】 厚生省は、感染防護策などを示している「レジオネラ症防止指針」を全面的に改めることにした。当時の防止指針 は1994年作られており、新たに24時間風呂対策を織り込む他、病院や特別養護老人ホームなどの施設については感 染の危険度を数値化、それに応じた検査や除菌を求めるのが柱となった。 |
【背景】 対処療法的な西洋医学に対して、人間の自然治癒力や免疫力を重視すべきという考えが起こり、東洋医学をはじめと する様々な療法が広まっている。本事例もそのながれの一つであろう。 24時間風呂でのレジオネラ菌については、1997年12月、24時間風呂でレジオネラ菌が高濃度で検出された事例につい て学術報告され、広く話題になり、これを受けて1997年1月25日、 住宅設備機器メーカー8社が24時間風呂の販売を一時中止したこともあった。 |
【知識化】 @ 新しい方法を鵜呑みにしない。今回も本事件以前に水中出産による死亡事故が発生していた。 A 新しい方法にはリスク回避を図ることが大切である。 B 事故は要因の複合で容易に発生する。24時間風呂で繁殖したレジオネラ菌と抵抗力が弱い新生児であったので事故が発生した。 |
【総括】 水中出産という新しい出産方法を採用していた。しかし、同研究所の会員では、過去に少なくとも3件の自宅出産での 死亡例があり、日本助産婦会は助産婦らに「研究所の会員から出産直後に急な連絡があったときは法的トラブルに巻き 込まれないよう、嘱託医に連絡を」と注意を呼び掛けていた。助産婦なしの自宅での出産だったことから、この勧告は 届いていなかった。 以上 |