【事例発生日付】1999年1月20日 【事例発生場所】 八丈島沖 【事例概要】 6人乗りマグロはえなわ漁船「新生丸」がパナマ船籍のタンカー「KAEDE」と衝突し、直ちに遭難信号を発信したが、漁業無線局の勘違いが発端で捜索開始が8時間遅れた。 33時間後、漂流の5人は僚船に発見され無事救助された。機関長は行方不明。 【事象】 6 人乗りマグロはえなわ漁船「新生丸」がパナマ船籍のタンカー「KAEDE」と衝突し、遭難信号を発信したが、 捜索開始が8時間遅れた。33時間後、漂流の5人は僚船に発見され無事救助された。機関長は行方不明。 |
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【原因】 1.見張り不十分・・・・・不注意 船舶の衝突・沈没に関しては、両線の見張り不十分が直接の原因である。 2.室戸無線局の勘違い・・・・・誤認知 船主が室戸無線局に「新生丸ですが、保安部より電話があった。イーパブ(衛星遭難信号)を発射しているとのこと。保安部と連絡がとれないそう。保安部の方から船に電話するように言っていた」と連絡したので、最初に「新生丸ですが」と言ったこと、船舶電話のように会話にタイムラグを感じたことから、新生丸からの電話と勘違いした。 3.他人の情報を鵜呑みにした 新生丸との船舶電話による通信不能状況を重視せず、他部署の情報を鵜呑みにした。 4.情報体制の複雑さ 連絡系統の複雑さと総合的な責任者がいない。 |
【対処】 運輸省に官房長を座長として郵政省および水産庁を含む外部の有識者を構成員とする 「漁船新生丸海難事故問題対策調査検討会」が2000年1月下旬から3月下旬まで計5回開催し、事実関係を調査するとともに、この事故を教訓または契機として救助活動をより迅速かつ的確に実施するための方策を総合的に検討し報告書にまとめた。 |
【対策】 @ 受信した遭難警報等が誤発射かどうかの判断は、海上保安庁が原則として遭難船舶との直接連絡または巡視船艇・航空機の直接確認により行なう。 A 遭難警報等を受信した場合、緊急の程度を最も高い段階として対応する。 B 海難情報を入手した場合は、救難統括責任者に速報、集約する。 C 海難の「緊急の程度」の判断は、救難統括責任者が行なう。 D 情報収集は、原則として、救難統括責任者が船主等海難の関係者に直接または関係者が所在する地を管轄する管区海上保安本部長等に依頼して行なう。 E 運用司令室等に自動通話記録装置およびモニター装置を導入すること等を検討。 その他、捜索能力の向上、漁船海難における通信確保に係る方策、防衛庁等関係機関等への協力要請、などが行なわれた。 |
【背景】 遭難警報の90%以上が誤発射であり、かつ、その中で聞き取り調査できたものはほぼ半数が乗組員の操作ミス等人的要因によるものという。 このことは遭難信号が誤発射の可能性が高いといる先入観に左右される傾向があることは否めない。 |
【知識化】 @ 思い込みによる情報伝達の危険性 A 日本語の表現のあいまいさが情報内容を変化させる。 B 先入観による事実の誤認識 狼少年ではないが、遭難信号の90%以上が誤発射であるとすると、まず誤発射ではないか、と考えてしまう。誤発射につながる事項が出てきた途端に、誤発射と結論つけられてしまう。従来に捉われない判断が求められる |
【総括】 衛星遭難信号受信後の経過をみれば、いかに連絡網が複雑であるかに驚く。まさに伝言 ゲーム(ゲームとは不謹慎であるが)といえる。情報伝達の難しさを思い知らされる事例 である。本来は衛星遭難信号受信後約30分で巡視船や航空機の発動となったはずが、この情報ミスで8時間も遅れてしまった。救命いかだを発見し救助できたことは不幸中の幸いであったが、この事例における多くのヒューマンエラーに学ぶことは多い。 以上 |