失敗百選 〜「ポケモン」パニック〜

【事例発生日付】1997年12月16日

【事例発生場所】日本各地

【事例概要】
テレビ東京系の人気アニメ「ポケットモンスター(通称ポケモン)」を見ていた全国の子供たちが、相次いで全身 けいれんや嘔吐の症状を起こした。アニメの赤青のストロボ光の点滅であるパカパカ・フリッカーや透過光などの 多用で、「光感受性発作(注)」を起こしたためである。

【事象】
テレビ東京系の人気アニメ「ポケットモンスター(通称ポケモン)」を見ていた全国の子供たち(一部大人も)が、 相次いで全身けいれんや嘔吐の症状で約770人が病院に運ばれた。
【経過】
12月16日、テレビ東京系列局等で放映しているアニメ番組「ポケットモンスター」で、番組後半の18:50前後、 テレビを見ていた子どもや一部の大人が、全身に痙攣を起こしたり、吐き気をもよおしたり、頭痛やめまいなど の症状となり、約770人が病院に運ばれるという事態が発生した。なかには、激しい痙攣とともに一次は意識不明 に陥った子どももあり、被害は全国に広がった。
また、事件を知らず録画していた同番組を見て、同様の発作を起こすなど、2次的な影響も出た。
【原因】
視聴者が「光感受性発作(注)」に陥った。
パカパカ・フリッカー・透過光などの技術が多用され、主人公がコンピューター内に出入りする際、中央から外側に 何重にも輪が広がる表現を使い、目が回るような錯覚に堕ちたり、戦闘・爆発シーンでは赤や青の光線が一秒間に12 〜13回点滅する場面など多く、画面全体がちらつき輝いていた。光り輝くシーンの表現は通常の回より多く使われていた。
番組後半の18:50前後、画面全体の赤と青の点滅や光のちらつきが視覚に入り、その連続が子供の脳に刺激を与えたことと、 目をそらさずテレビに集中していたことや暗い部屋で見ていたこと、テレビの目の前で見ていたことなどが相乗したものと 推定される。
(注)光感受性発作:強い光による刺激が、視神経を経て大脳皮質に伝わり、発作を引き起こす脳波が誘発される症状
【対処】
共同研究班(95年頃結成された、テレビゲームなどの光刺激で誘発される発作の実態解明するための、小児科医や精神神 経科医からなる研究チーム、代表清野昌一)は、事件の後番組を録画したビデオを視聴・分析で番組の中に発作などの症状 を起こしやすい条件が揃っていたものと結論づけた。研究班は、病院に運ばれた子どもたちの症状を退院後も追跡調査する とともに、心身の異常が生じた原因や後遺症の有無について引き続き調査した。
  また、通産省指導のもと日本電子機械工業会「3次元映像に関する調査研究開発委員会」での研究も実施されていた(1996〜)。
【対策】
1998年4月8日、NHKと(社)日本民間放送連盟(民放連)は、下記の「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」 を設けた。


1. 映像や光の点滅は、原則として1秒間に3回を超える使用を避けるとともに、次の点に留意する。
(1)「鮮やかな赤色」の点滅は特に慎重に扱う。
(2) 前項(1)の条件を満たした上で1秒間に3回を超える点滅が必要なときは、5回を限度とし、かつ、 画面の輝度変化を20%以下に抑える。加えて、連続して2秒を超える使用は行なわない。
2. コントラストの強い画面の反転や、画面の輝度変化が20%を超える急激な場面転換は、原則として1秒間に3回 を超えて使用しない。
3. 規則的なパターン模様(縞模様、渦巻き模様、同心円模様など)が、画面の大部分を占めることも避ける。

また、映像が与える影響から視聴者を守るためには"テレビの視聴方法"も重要な役割 を果していることが指摘されている。テレビを見るためには、明るい部屋で、受像機から 2メートル以上離れるなどの予防策も必要である。
NHKと民放連は今後、共同して視聴者への"テレビの見方"に関する正確な情報提供を心掛けることとする。
以上
【背景】
「ポケモン」はもともと任天堂の携帯型ゲーム機用ソフトの名称で様々が冒険をしながら、151種類のモンスターを 集めるゲームである。これをテレビ東京がアニメ化して、毎週火曜日の午後6時30分から系列局で放映していていた もので、平均17%という高視聴率を確保していた。日の長い季節には、毎週火曜日のこの時間が近づくと、公園から 子どもがいなくなるとさえ言われるほどの人気番組であった。
アニメ番組では、経済的に安く、技術効果が抜群のパカパカ・フリッカー・透過光などのアニメ技術が1970年代から 多用されていた。
「ポケモン」のこの日の番組は電脳世界を描くため、これらの技術が多用された。
また、その効果は不明だが、映像のフレーム間にメッセージを潜りこませておくサブリミナル映像がTBSのオウム 真理教報道で使われて問題になったことも記憶に新しい。  
【知識化】
@ 大きな不具合の前には、類似の小規模な不具合が存在する。・・・・・過去情報把握不足 過去情報の積極的収集が不可欠である。
A 因果関係が不明確でも事故は発生する。・・・・・未知への対応 「疑わしきは罰す」メカニズムが不明確でも予防的に対応すべきである。
B 電子映像が飛びかう電脳社会での被害の影響の大きさ テレビゲームとは異なり、チャンネルを合わせさえすれば、誰でも視聴できる。 情報通信の拡大によって、影響度はますます大きくなってくる。
【総括】
本事例と類似の不具合は過去にも発生している。
1995年、英国で、テレビゲームで少年の失明事件(1993年)が発生したのを契機に、商業テレビを監督する インディペンデント・テレビ委員会(ITC)が指針を作成。テレビはもともと明滅するものだが、光感受性発作 を避けるために、ITCの指針は具体的に1秒間に3サイクル以上の回転数で「明滅する光、あるいは急速に変化する 画面を避ける」こと、「明滅する光や画像がテレビ画面の中央にあったり、画像範囲の10%以上を占めない」こと を禁止事項としてあげている。
日本でも、同じ年の1997年3月、NHK教育テレビのアニメ「YAT安心(宇宙旅行」を見た静岡県内の子供4人が発作を 起こした。千葉、山形県内からも2件の問い合せがあった。     

以上