失敗百選 〜高圧空気タンク発火・爆発〜

【事例発生日付】1995年7月31日

【事例発生場所】 埼玉県桶川市

【事例概要】
三菱マテリアル桶川製作所銅合金押出工場で高圧空気タンク破裂。従業員や近所の住民 2名を含め負傷者18名(13日後に1名死亡)を出した。アキュムレータの作動油が劣化し可燃物を形成したことが直接の原因であった。

【事象】
三菱マテリアル桶川製作所銅合金押出工場で高圧空気タンク破裂。従業員や近所の住民 2名を含め負傷者18名(13日後に1名死亡)を出した。
【経過】
8:27頃、アキュムレータ設備担当者が押出プレス装置を稼動させるため、アキュムレータ(1650トン油圧プレス機用の作動油を空気圧により加圧するため装置)の上部の圧縮空気送給用手動バルブを開いたところ、他の運転作業者の1人が「コツ」といった音を耳にした。その作業者がアキュムレータ設備の方を見ると手動バルブを操作していた作業者と目があった(その間1〜2秒と推定)、その後瞬時のうちに、当該設備に連結されている圧縮空気貯槽が爆発し、火災が発生した。 ただちに消防署に通報し、消防車が駆けつけ放水を開始した。
8:44頃、鎮火。
圧縮空気貯槽2基本体は、ばらばらに破損・飛散(A槽:13破片・最遠630m、B槽:11破片・最遠1200m)していた。
参考までに本設備の運転操作手順は以下のとおり。
@ 遮断されている手動バルブを開にする。
A アキュムレータに油圧ポンプから油圧作動油を供給する。
B センサーでアキュムレータのピストンが上端に達したことを検知し、油圧作動油の供給が自動的に止る。
C シャットオフバルブを開き、プレス加工を行なう。
D Aに戻る。
【原因】
 
  1. アキュムレータの作動油が劣化し可燃性に変化した(可燃物の生成)
    作動油が長期間にわたる空気の圧縮・膨脹が繰返される過程で劣化し、低沸点の炭化 水素生成、可燃性混合気を形成した。  
  2. 手動バルブの急激な開操作(着火要因)
    アキュムレータとの圧力差により、圧縮空気貯槽側から可燃性混合気が急激にアキュムレータ側に流れ込み、断熱圧縮、静電気、高速移動したすすや粉塵等の摩擦熱などが原因となり(推定)、アキュムレータ内あるいは、手動バルブとアキュムレータ間の配管内で発火、アキュムレータ内で爆発。
  3. アキュムレータが油密を保持できない構造・・・・・設計不良(事前検討不足)
    アキュムレータが、油密を保持できない構造のため、作動油がピストン摺動面から圧縮空気貯槽(直径1.042m、高さ3.540m、鏡板厚4p、胴体板厚6.62p、1.8立方m、最高使用圧力210気圧)側に流れ込んだ。
  4. メンテナンス不十分
    適切な清掃等が行なわれなかったため、アキュムレータ内の作動油が劣化し可燃物を生成した。
【対処】
埼玉県商工部工業保安課は、事故直後ただちに高圧ガス取締法第39条に基づき、知事名で高圧ガス製造所および貯蔵所にあたる全高圧ガス施設に対して、一時停止を命じた。
北本市消防本部は、事故当日午前8時40分、消防法第12条の3に基づき北本市長名で押出工場、圧延工場および北本製作所内の全施設の 使用停止を命じた。
通産省環境立地局保安課は、事故原因の究明と再発防止策の検討を行なうために、8月 4日付けで高圧ガス保安協会内に「圧縮空気貯槽等破損事故調査委員会」を設置した。
【対策】
上記「圧縮空気貯槽等破損事故調査委員会」は、再発防止策として以下の提言を行っている。
高圧空気下で油を用いる場合の最も望ましい再発防止の対策としては、「空気に替えて窒素を用いること」しかし、これが困難な場合は次の点に留意する。

@ 空気部分と油部分を隔離する構造とする。
A 設備内の状態を適切に確認できる構造とする。
B 空気部分に混入した油類がごく少量であっても、その油類が変質していないことを確認するために、ドレンや油類の性状を管理すること。また、系内を定期的に清掃して系内の油類を排除する。
C 空気部分と油部分の圧力が常に同圧で保持できない構造である場合、両者を分離する弁を開くときには、衝撃的な流れを生じないような構造または作業手順を定めて実施する。
【背景】
1650トン押出プレス装置は、1964年に設置された。設置時には今回事故を起こしたアキュムレータ設備はなかったが、5年後に当該押出プレスを移設した際に、アキュムレータ設備を付設し、ニッケル合金等の硬物の押出設備として稼動を開始した。(アキュムレータ設備は、第2種圧力容器として労働基準監督署に設置届が提出されている。)
その後、1985年に空気圧縮機を更新して、事故の起こした設備になった。その際に、工場は、高圧ガス取締法の適用をうけることになり、製造許可および完成検査合格証を受けている。完成時には315kg/cm2の耐圧試験を実施している。事故直近の検査としては、1994年に定期自主検査を、1995年に保安検査を実施し、設備に問題のないことを確認していたという。しかし、事故の起こした設備は設置以来、適切に内部の清掃等が行われていなかった。管理は機器管理台帳による計画的な保守管理ではなく、月例点検によって不具合個所が見つかれば補修していく形態であった。  
【知識化】
@ 設備は稼動で変化する・・・・・使用環境変化
稼動初期状態に近づけるメンテナンスが重要である。パソコンのフリーズ不具合に再インストールによる初期化が有効であることとよく似ている。
A 設備の構造・機能を無視した運転管理は危険をはらむ
B 火源は意外なところに潜んでいる
【総括】
本事例は、圧縮空気貯槽の材料劣化または製造欠陥による破裂ではなく、装置内で生じた化学的爆発によるものである。
今回の設備は、昼夜連続運転されるものでなく、1ヶ月のうち1週間前後しか使用されていない。その開始操作において、アキュムレータ側と圧縮空気側の圧力にどの程度の圧力差があるかも確認していなかった。いつも初期稼動の手順で作業が行なわれていた。
どんな設備でもすべて稼動後は劣化していく。したがってその条件は当然変化していくが、一般に作業マニュアルはその変化に対して考慮されてはいない。その変化に適切に対応をしないと大きな事故となることをこの事例は教えてくれている。    

以上