【日時】1993年10月5日 【事例発生場所】大阪市 南港ポートタウン線住之江公園駅構内 【事例概要】 新交通システム・ニュートラム南港ポートタウン線住之江公園駅で無人運転の電車が暴走。車止めに衝突した。常用ブレーキが効かなかったためであった。215名の乗客が負傷した。 【事象】 新交通システム・ニュートラム南港ポートタウン線住之江公園駅で無人運転の電車が暴走。車止めに衝突した。215名の乗客が負傷した。 |
【経過】 17:30頃、新交通システム・ニュートラム南港ポートタウン線で、無人運転の電車(中ふ頭発住之江公園行き、4両編成、乗客約250人)が、住之江公園駅に接近した際、常用ブレーキが作動しなかった。 ATCにより、非常ブレーキが作動したが、間に合わず、時速35kmで、通常停止位置から約51m暴走、車止め緩衝器(鋼鉄製支柱1.7mに硬質ゴム厚さ55pを取付けたもの)に衝突した。215名の乗客が負傷した。 11月19日、全列車の運転席に添乗員を乗せて運転再開。 |
【原因】 1. 継電器に一時的に電流が流れなかった 前から3両目にある中継継電器盤内の、ATO(自動列車運転装置)常用ブレーキをATC(自動列車制御装置) 常用ブレーキに変換する継電(リレー)器の接点に、何らかの原因で荒損(ささくれたような凹凸)ができていたため、 継電器に一時的に電流が流れず、ATOからATCへのブレーキ指令信号の変換ができず、常用ブレーキが効かなくなった。 2.継電器の接点に荒損(ささくれたよう凹凸)ができていた 様々な再現テストを実施したが、凹凸の発生メカニズムは判明しなかった。 |
【対処】 事故後、直ちに大阪市交通局内に「ニュートラム事故調査委員会」を設置し、現場調査、列車モニター情報記録の解析、フォルト・ツリー解析(FTA)、部品調査および現車試験等事故原因の究明と運輸営業再開に必要な安全対策について検討を実施した。 11月15日〜17日、運輸・建設両省による「特別保安監査」を受けた。 11月19日初発から当面添乗員を乗せて、運転を再開した。 事故原因は「ブレーキ電源指令系統にある継電器または部品の一時的導通不良」と推定。 再開に当たっての主な対応策は以下のとおり。 @ ATC常用ブレーキ指令継電器に接触不良などが発生しても、ブレーキ指令が確実に伝達できるように、接点構成の変更と配線の二重化をした。 A ATO・ATC常用ブレーキとATC非常ブレーキの電源を共用化して、ATO・ATC常用. ブレーキ電源が切れると、直ちに非常ブレーキが動作するようにした。 B ATC装置から出力されたブレーキ指令が、従来の系統に加えて別の系統からも C 終端駅である住之江公園駅に、列車速度を検知し、所定の速度を超過した場合には、 直ちに非常ブレーキを作用させ、車止めに至るまでに列車を停止させるように、地上速照式非常停止装置(決められた2地点間の列車通過速度を検知し規定速度以上の場合に非常停止させる装置)を設置した。 D 駅間で常用ブレーキが作用しない場合、非常ブレーキにより列車を安全に停止させるように信号配置を変更した。 |
【対策】 @ ATCをその本来の機能であるATOのバックアップシステムとするために、AI制御に よる自動運転制御をするATO装置を採用した。 A 住之江公園駅を除く各駅入駅部および曲線部において、地上側で列車速度を検出し、規定速度を超えた場合に非常ブレーキで列車を停止できるようにした。 B ATO装置とATC装置の両方からブレーキ指令が出た場合、両方のブレーキ指令がブレーキ装置に伝達できるように、ブレーキの信頼性を向上した。 C 地上および車両の主要な装置に各種情報記録装置の充実を図り、故障原因の究明に役立てるようにした。 以上、ニュートラム事故調査委員会の最終報告書より。 |
【背景】 1990年代前半は、横岳のほか、長野、新潟県の2ヶ所のスキー場で日本初の166人乗り高速ロープウェイが導入されるなどロープウェイ・リフト業界では当時数年大型化、高速化が著しかった。当然コンピュータによる制御が導入されていた。 |
【知識化】 @ 不具合の発生メカニズムが明確にならない事故もある。 この場合の対応としては、不具合が発生しても補完するシステムが有効である。 A 無人による制御は、一時的な通電不良でも大きな事故につながる。 B 多重安全性の確保は、万一の際の影響度を考慮して実施する。 |
【総括】 安全の確保を無人で行なうことの、困難さを示す事例である。一時的な導通不良が制御信号を伝達できなくして大事故 になっている。しかも、その接触不良部の発生メカニズムが未だに明確になっていない現実がある。となると、別系統 による多重安全性しか対応できそうにないがコスト増の問題ともなる。そのバランスや万一の場合の影響度合いを考慮 することが大切であろう。 以上 |