【日時】1992年10月30日 【事例発生場所】長野県茅野市 北八ケ岳連峰横岳 【事例概要】 ピタラス横岳のロープウェイでコンピュータ制御のゴンドラが山頂・山ろく両駅で停止せず、壁に衝突。運転レバーの切替ミスと、作業員の停止指令リミットスイッチへの誤接触が原因であった。観光客ら70人が重軽傷を負った。 【事象】 ピタラス横岳のロープウェイでコンピュータ制御のゴンドラを運行していたところ、下りと上りいずれのゴンドラも山頂・山ろく両駅で減速しないまま停止せず、コンクリート壁に衝突した。観光客ら70人が重軽傷を負った。 |
【経過】 16:00、ピラタス横岳ロープウェイ(標高差466m)で、山頂駅と山ろく駅からそれぞれ ゴンドラが発車。衝突22秒前、運転手は、ゴンドラが駅手前約150mに近づいた時、ゴンドラが駅に近づいても接近警報ブザー (チャイム)が鳴らず、操作盤の位置表示数値も止まったままで、異常に気付いたが、減速するかと思ううちゴンドラが目 の前に迫り、動転して手動の非常停止ボタンを押し忘れた(あるいは、押す間がなかった)。山頂駅の監視室にいた従業員も、 切符の整理中で、直前に気付いたが、非常停止ボタンを押す間がなかった。 16:10頃、下りゴンドラと上りゴンドラ(乗員1人・乗客10人)が、それぞれ山頂・ 山ろく両駅で減速しないまま停止せず,同時にコンクリート壁に衝突。観光客ら70人が重軽傷を負った。 1993年4月25日、営業運転再開。 |
【原因】 1.運転レバーの切替ミス・・・・・ルール・マニュアル(手順)の無視 山ろく駅の運転室でゴンドラを操作していた運転手(43)が、下りゴンドラ(乗員1人・乗客60人)到着前に、ゴンドラが 下がっているにもかかわらず、途中で運転レバーを上りに切替えた。(レバーの逆操作は、ゴンドラ停止から再出発までの 運転作業の手間を省くため、数ヶ月前から行なわれていた。) 2.停止指令リミットスイッチへの誤接触・・・・・設計不良(注意・用心不足) 山ろく駅舎で、たまたま定期点検をしていた作業員2人が、駅舎上部にある停止指令リミットスイッチに誤って触れた。 3.コンピュータプログラム想定外事態のエラー・・・・・仮想演習不足 上記の運転レバー切替および停止指令リミットスイッチ度接触によって、モーターを制御するコンピュータが、プログラム想定外事態としてエラー表示(あるいはゴンドラが駅に到着したと判断)、ワイヤの動きの計測を停止し、減速装置不作動、さらに、非常停止装置も不作動。 |
【対処】 警察と運輸省はロープウェイ史上最大の事故として重視、業者の専門家にも協力を求め、71人体制の大がかりな現場検証を実施。 |
【対策】 不明 |
【背景】 1990年代前半は、横岳のほか、長野、新潟県の2ヶ所のスキー場で日本初の166人乗り高速ロープウェイが導入されるなどロープウェイ・リフト業界では当時数年大型化、高速化が著しかった。当然コンピュータによる制御が導入されていた。 |
【知識化】 @ コンピュータ制御は、万全ではない。・・・・・思い込み 異常に気がついても、コンピュータ制御だからそのうち減速するだろうとの思い込み が事故の被害を大きくした。 A ルールは使い勝手で容易に変わってしまう。・・・・・ルール・マニュアルの無視 運転レバーの上下切替行為は、事故の数ヶ月前から行なわれていた。特に異常が発生していなかった。JCOの臨海事故のヒシャク作業と同一である。 B 万一の事態に対応できる行動訓練が不可欠である。・・・・・訓練内容の不備 異常の際の乗客誘導などの訓練は行なわれていても、事故の防止につながる係員の とっさの行動を引き出す訓練は実施されていなかった。 |
【総括】 このロープウェイは、茅野市、諏訪バスなどが共同出資する第3セクタ「ピタラス横岳ロープウェイ」が1992年1月、新規導入した。100人乗りゴンドラが売り物。出発から停止まで全てコンピュータで制御される最新大型装置であった。ゴンドラは、駅の約110m手前でモータの回転数を落として減速、駅の3m手前で、滑車のディスクブレーキを段階的に作動して自動的に停止するシステムであった。コンピュータ制御過信への危険性と、外乱による制御プログラムのもろさを示している。もちろんコンピュータ制御の他に、非常用停止ボタンがゴンドラの運転室、山頂駅監視室、ホームなど計8箇所もあり、異常に気づいた係員が押せば、手動で滑車にブレーキがかかる仕組みであったが、異常に気づいても誰もボタンを押さなかった。異常時の対応方法についての課題も大きい。 以上 |